韓国政府は野田佳彦首相が李明博大統領に送った親書を送り返した。親書の内容に不満があり反論の必要もないと判断したようだが、外交儀礼上、異例のことだ。国際社会の理解も得られまい。
野田首相の親書は、島根県・竹島(韓国名・独島)の領有権で国際司法裁判所に韓国と共同提訴するよう提案するとともに、李大統領の竹島上陸や天皇陛下への謝罪要求発言に遺憾の意を示した。
これに対し、韓国政府は親書に「極めて不当な主張がある」として在日大使館を通じて返送しようとしたが、外務省は受け取りを拒否した。双方の首脳や閣僚が相手国に、発言の撤回や謝罪を求めるほど対立が深まっている。
韓国外交通商省報道官によると、首相親書には「李大統領が島根県竹島に上陸した」と書かれているが、訪問したのは韓国領の「独島」だとして、「事実ではない指摘について答えること自体が矛盾する」と判断した。
また、韓国各メディアの報道だと、親書の扱いについて、放置、返送、反論の三案が検討されたが、反論すれば、竹島が領有権をめぐる国際紛争地だと認める恐れがあるとして、親書に回答せず返送を決めたという。
韓国は冷静になって考えてほしい。対立がここまで悪化したのは歴代大統領が慎重だった竹島訪問を、李大統領が突然強行したのが発端だ。さらに、大統領が植民地支配について、民間人との会合の席で天皇陛下の謝罪を要求したのは、著しく礼を失したものだと言わざるをえない。
日本政府は韓国との経済や科学技術の協議を延期するなど対抗措置を取っている。国会も近く、衆参両院本会議で竹島上陸を強く非難する決議採択をする。この十年余、未来志向を掲げてきた日韓関係は危機にひんしている。
外交は自国の主張を展開し、ときには対抗手段をとるものだが、一方で、合意点を探り関係改善に努める政策も常に求められる。
日中韓の自由貿易協定(FTA)協議では日韓両代表が出席した。一時帰国していた武藤正敏駐韓大使もソウルに戻った。韓国語に堪能な大使の帰任は、関係悪化に歯止めをかけるために必要な措置だ。政府間対話のチャンネルを閉ざしてはならない。
韓国では十二月に大統領選が実施される。対立を持ち越さないよう、次期政権も見据えた日韓双方の外交努力が必要だ。
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