雪の残り【6】
「今年は優勝を狙っていきます、ってさ。誰でも言えることじゃない」
純一君の言葉のトーンが少し低く、私はその言葉の中に、寂しさ……いや、悔しさが多分に含まれているように感じた。
思ったままを純一君にぶつけてみると、純一君は口をとがらせ、不貞腐れたような表情で、「別に」と答えた。
私には純一君が何に腹を立てたのか分からず戸惑ってしまい、おろおろとしてしまう。その様子が純一君にも伝わったらしく、彼はしぶしぶといった口調で胸中を語った。
「悔しくはないけれど、少しうらやましいな」
泳いでいるところを見たいと言ってみると、純一君が屋内水泳場まで連れて行ってくれた。さすがにプールサイドに入ることはできなかったけれど、二階控室から見ることができるらしく、ガラス越しにプールの様子を見下ろすことができた。
二階控室にも数人の生徒がいたけれど、私は特に咎≪とが≫められたりすることもなく、静かに見ていることができた。
「一番左端の8レーンで泳いでいる……のがそうだと思う」
純一君が指差した方に目をやると、男子生徒が泳いでいるのが見えた。私の眼はあまり遠くの距離を見るのには適していないうえに、変な白い帽子と目を覆っているゴーグルとで顔はよく分からない。人間の、特に女の子は泳ぐときに妙な着衣をつけるから、それで男女の判別だけは出来る。
「人間ってさ……どうして、あんなに無理な泳ぎ方をするの?」
声をひそめて純一君に尋ねる。
純一君が孝樹君だと指差した生徒は、両腕を同時に水の上に出して、一気に水をかく。と同時に、足下から水しぶきが上がる。
「あれがバタフライっていうんだ。何でそんな泳ぎ方をするのかよく分からないけれど」
同じく声をひそめて純一君が返答した。
無理な泳ぎ方をしているように見えるけれど、速い速い。あっという間に、向こう側から手前側まで泳ぎきってしまう。純一君が、「1レーン50mあるんだ」と教えてくれた。
「上から見ていてもよくわからないけれど、うまい人のバタフライは、まるで水の上を飛んでいるように見えるんだ」
バタフライを直訳すると“蝶”を意味する言葉だと私が知るのは、ちょっと先の話である。
突然、孝樹君が泳ぐのを止め、プールサイドに上がってきた。すると上に黒いジャンパーを羽織った人のところへ行って、何事か話しているのが見えた。
その人に小さく頭を下げると水泳場から出て行った。水泳場の出入り口は、ちょうど私たちのいる二階控室の真下なので、ここからでは完全な死角になる。
「今日は、練習は終わりかな」
と言った純一君に、私は「激励して行こうよ」と声をかけた。純一君は、「何で僕が……」とあまり気乗りしないような反応をしたが、結局、私に付き合ってくれることになった。
二階控室を出るときに振り返ると、控室にかけられた丸い時計が目に入ってきた。短い針が6を、長い針が12を指していた。
「……名城」
孝樹君と顔を合わせたのは、校舎と水泳場を繋ぐ渡り廊下でだった。孝樹君は、すでに着替えを終えて、制服姿で出てきたところだった。
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