東京電力福島第1原発事故による放射能の影響から逃れる「自主避難者」の数を、関東の自治体の大半が把握していないことが、神戸新聞社の調べで分かった。岩手、宮城、福島の被災3県以外の自主避難者は、関東を中心に数千〜数万人規模とみられるが、行政の支援対象から外れ、孤立感を深めている実態が浮き彫りになった。
局所的に放射線量の高い「ホットスポット」があるなど、放射能の影響からの自主避難者が多いとされる東京、茨城、栃木、千葉、埼玉、神奈川の1都5県に神戸新聞社が尋ねた。その結果、総務省の「全国避難者情報システム」を活用し、自主避難者数を把握していたのは千葉、神奈川の2県だけだった。
千葉県は8月時点で728人おり、昨年7月と比べて倍増。今年3月からでも72人増え、ホットスポットがある松戸市、柏市からの避難者が156人を占めた。神奈川県も昨年7月に75人だったが、今年8月には175人に増えていた。
千葉県の担当者は「避難後にすぐ届け出があるわけではなく、集計に時間差はある」とした上で、「放射能への不安が消えず、原発事故から1年以上が過ぎて避難を決断する人が増えているかもしれない」と話す。
一方、東京など1都3県は把握していない。
「被災3県から都内への避難者が1万人おり、自主避難者の把握まで手が回らない」(東京都)、「住民票を他府県に移していれば、行政サービスの提供に限界があり、人数把握の必要性を感じない」(埼玉県)などと説明する。
復興庁は自主避難者を含め、全国の避難者総数を把握する。昨年12月から33万〜34万人台で推移しているが、自主避難者の内訳は不明という。避難者の把握は避難先自治体での自主的な登録が前提だが、自主避難者は登録をしないケースも多いとみられる。
兵庫県には7月末時点で1073人の避難者が登録。茨城県94人、千葉県64人、東京都17人など、全体の約2割は被災3県以外の自主避難者が占める。兵庫県が把握した情報は避難元自治体に連絡しているが、大半が活用していなかった。
千葉県から今年4月、神戸市内に家族4人で避難した40代の男性は「福島県や周辺の除染が進まず、放射線量が下がるめどが立たないのでやむなく避難した。国や自治体、東京電力から何の支援も補償もなく、泣き寝入りしている」と話す。(木村信行)
【実態調査を】
室崎益輝・関西学院大教授(都市防災)の話
国や関東の自治体は、自主避難者を、支援が必要な「避難者」と位置づけていないのだろう。だが、放射能への不安、子どもへの危惧からやむにやまれず避難した人たちを放置すべきではない。個別の事情に応じて何らかの支援が必要で、まずは実態を調査すべきだ。その上で自主避難者を社会的に支える仕組みを考える必要がある。
(2012/08/26 08:01)
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