全戦全勝、勝率１００％。東京大学が開発したじゃんけんに勝つロボットが話題だ。インターネットの動画サイト「ＹｏｕＴｕｂｅ」（ユーチューブ）にアップされると再生回数は２カ月で３２０万回を超え、世界中から関心が寄せられている。シンプルにしてインパクト大。遊び心満載の「じゃんけんロボ」って…。
パーを出せばチョキ、チョキを出せばグー。何度繰り返してもロボットが人に勝つ。スピードを上げても結果は同じ。機械が全戦全勝だ。
この「じゃんけんロボ」が６月末、ユーチューブに投稿されるとアクセス数は１日で１００万回を超え、８月２４日時点で約３２９万回。いまもコンスタントに閲覧されている。
開発したのは東京大学、石川・奥研究室の石川正俊教授（５８）。
勝率１００％の仕組みは、人間の手の形（グー、チョキ、パー）を超高速ビジョンが１ミリ秒（０・００１秒）で認識し、それに勝つ手をロボが選択しているためで、簡単に言えば究極の“後出し”。認識から動作まで２ミリ秒ほどという。「人間の認識能力の限界（０・０３秒ほど）をはるかに超えているので、人は後出しだと認識できません」と石川氏は胸を張る。
作製したのは２年前で日数はわずか１日。「もちろん、技術研究には１０年以上の歳月が掛かっていますが、じゃんけんロボに使われている要素はうちの研究室では非常に基礎的なものなので」と石川氏。目的はさまざまな研究成果を分かりやすく紹介するためで、ロボット自体は「何の役にも立ちませんよ」と笑う。
今年になってテレビ番組で紹介されることになり、それを機に動画を投稿した。「テレビで放送されたものがコピーされて出回るのも癪だからとアップしたんですが、さすがに驚きました。じゃんけんという単純さが受けたのでしょうか」（石川氏）。想定外のブレークだったと振り返る。
動画ではなくロボの実物を見たいところだが、「もう、この世にありません」（同）とは意外。研究のため、別のものに作り替えてしまったというから何とも素早い。
研究室には、じゃんけん〜のほか絶妙なコントロールで球を投げ、それをほぼ１００％の確率で狙ったところに打ち返すピッチング＆バッティングロボ、落ちてくる生卵を２本の指で割らずにキャッチするロボなど興味深いシロモノが続々と転がっている。
ピッチング＆バッティングロボは、投げるのも打ち返すのも極めて精密な制御が求められ、０・００１秒単位でボールの位置を認識する能力が必要。生卵キャッチも落下する卵を正確に把握する能力と繊細な指先の制御が求められる。
この技術の応用分野は無限大で目下、産業用機械の高速化や顔認証などのセキュリティー、周辺認識技術など自動車事故の防止技術で期待され、大手企業との共同研究も進む。
「ロボットを人間の動きに近づけるというのでは意味がない。人間を超えて機械の限界を追求することが目的です」と石川氏。
“何の役にも立たないロボ”は、産業の空洞化が叫ばれる技術立国日本の救世主になってくれるかもしれない。