時論公論 「進まぬ鉄道復旧~誰が費用を負担するのか」2012年08月20日 (月)

松本 浩司  解説委員

【リード】
東日本大震災で被災して不通になっている宮城県のJR気仙沼線で、きょうからBRTと呼ばれるバスの運行が始まりました。地元は鉄道が復旧するまでの、いわば「つなぎ」の交通手段として受け入れたものですが、この気仙沼線をはじめ被害の大きかったJR東日本の3つの路線は、鉄道復旧のメドがまったく立っていません。障害になっているのは莫大な復旧費用で、今夜はその負担の問題を考えます。

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【運行が始まったBRTとは】
(VTR)
JR東日本がBRTの暫定運行を始めたのは気仙沼線で運休している50キロ余りの区間です。BRTというのは、「バスによる高速輸送」を意味する英語の頭文字をとったもので、一般には専用道路を走るバス路線のことを指します。
気仙沼線のBRTでは便数は多い区間で鉄道のときの2倍に増え、バスがどこを走っているかわかる新しいシステムも導入されました。線路を舗装した専用道路は今はわずかですが、JRは今後全体の6割まで増やすことで鉄道のときとほぼ同じ速さと定時制を確保したいとしています。
 
【地元自治体の立場~あくまで鉄道復旧を】
しかし、このBRTをめぐって地元はゆれ続けてきました。

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震災の影響で今も運休している8路線のうち鉄道復旧のメドが立っていないJR山田線、大船渡線、気仙沼線についてJR東日本はBRTによる「仮復旧」を提案しました。3線は被害が大きいうえ、まちづくり計画を待つ必要もあることから鉄道の復旧にはたいへん時間がかかる、というのが理由です。
 
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「BRTを受ければ鉄道の復旧がなくなってしまうのではないか」と心配する地元自治体は対応が分かれました。
▼気仙沼線の地元は「鉄道の復旧が前提」と念を押したうえで、沿線住民の足を確保することを優先してBRTを受け入れました。
▼一方、山田線の地元は計画で専用道路区間が短いことから「時間短縮効果を期待できない」として拒否し、あくまで鉄道の復旧を急ぐよう求めました。
▼大船渡線の地元は検討を続けています。

いずれの地元も鉄道の復旧を強く望んでいます。鉄道は住民にとって欠かせない足であると同時に駅は町の中心であり、復興のために絶対に必要だと訴えています。地元が鉄道にこだわるのは鉄道が廃止され町がさびれてしまったり、鉄道に替わって運行されたバス路線もやがて便数が減ってしまったケースが少なくないことを知っているからです。
 
【JRの責任~民間企業と公共性】

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JR東日本はBRTは「仮復旧」とする一方、3線について「鉄道復旧」を明言していません。鉄道復旧の条件として
▼安全性が確保できること、
▼復興まちづくり計画との整合性などに加えて、
▼国や自治体からの公的な支援を受けられることをあげています。
最大の問題は費用です。
 
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復旧にかかる費用について、国土交通省は「たいへん大雑把な計算だ」としたうえで、
▼ルート変更のない山田線でも最大で200億円、
▼大船渡線が最大500億円、
▼気仙沼線では最大900億円かかると見ています。

JR東日本は全体としては大きな黒字を出していますが、旅客の減少が続いてきた3線は復旧しても大きな赤字運営が確実で、民間企業として莫大な投資には慎重にならざるを得ないでしょう。
いまの仕組みでは被災した鉄道を復旧させる責任はすべてJR東日本が負っていて、鉄道を存続させるかどうかもJRが判断し、国などが強制することはできません。ただJRの責任を考える上では国鉄から分割民営化されたときの経緯を確認しておく必要があります。

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25年前の国鉄民営化に伴い、乗客数が一定の基準に満たない赤字ローカル線はバス転換したり第3セクター化するなどしてJRから切り離されました。莫大な借金の一部を国民が肩代わりして最終的におよそ24兆円を負担しました。そうした手厚い保護のうえでJRは企業努力を重ね黒字会社になりました。
JRの本州3社は11年前に完全民営化した際にも、国の指針で「現に営業する路線の適切な維持に努める」ことと「廃止しようとするときには自治体などに十分に説明すること」をあらためて求められています。
ただ維持を求められた多くの地方路線は乗客がその後著しく減少していて、民営化時の維持の基準を大きく下回っているところが少なくありません。山田線、大船渡線、気仙沼線は当時の基準の半分から4分の1しかないというのも事実です。
 
【国の立場~黒字企業は支援せず】
では国はどう考えているのでしょうか。赤字の鉄道会社の災害復旧を国が支援する仕組みがありますが、黒字のJRは対象にならず、一切支援しない考えです。過去の経緯を踏まえれば国民の理解を得られないと考え、支援を求める地元に対しては「交通の復興支援として、まずは三陸沿岸を通る自動車専用道路の整備を急いでいる」と説明しています。
 
【従来と違う震災鉄道復旧をどう考えるか】
地元、JR、国の立場は食い違い、3線の鉄道復旧の道筋はまったく見えていません。問題を難しくしているのは今回の復旧が特殊なことです。
従来の災害復旧ならば鉄道を元の場所に復旧させればよいのですが、今回は高台移転やかさ上げにともなって鉄道のルートの変更や線路のかさ上げなどの費用が余計にかかります。

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例えば気仙沼線で見ると、国が概算で出した900億円というのは高台移転などまちづくりにかかる費用を含んだ最大額で、震災前と同じ場所に同じように復旧させるのであれば200数十億円と推計されています。

鉄道復旧のあり方について専門家の意見もさまざまですが、概ね一致するのは次のような考え方です。震災前と同じ場所に復旧するのにかかる費用と乗客の安全のためにかかる費用はJRが負担し、新たな町づくりのために発生する費用は公的な負担とするというものです。
ただ、こうした公的負担も大きな費用が必要になり、バスによる新しい公共交通システムへの移行もやむを得ないと考える専門家もいます。

解決の糸口はなかなか見つかりませんが、この問題を考える上で3つの点を指摘したいと思います。
 
▼国には、鉄道復旧を公的に支える仕組みができないのか、知恵を絞ってもらいたいと思います。

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赤字の第3セクター三陸鉄道の復旧では、108億円かかる費用のほぼ全額を国が負担することになりましたが、会社への直接の税金投入はできないため土地や線路などの施設を自治体が所有することにして自治体を支援するという形を取りました。
 高台移転など復興まちづくりと一体的に鉄道復旧を進めることで効率化を図る一方、新たな仕組みも検討してもらいたいと思います。

▼また未曾有の災害からの復興のため国が従来の枠組みを大きく超えて取り組み、国民も負担を引き受けているなかで、JR東日本も鉄道の復旧に向けてさらに積極的な取り組みを求めたいと思います。

▼そして町の将来像のなかで鉄道・公共交通をどう整備するのが望ましいのか、公的負担を求めるのであれば国民負担に応えるまちづくりをどう進めるのか、地元とJRそれに国とでさらに腹を割った議論を進めてもらいたいと思います。

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【まとめ】
東日本大震災で被災した鉄道の復旧を考えてきましたが、この問題の根底にあるのは
人口減少に伴い乗客が減少する地方鉄道をどうやって維持するのか、公的な支えはどうあるべきか、という問題に行き着きます。東北地方では豪雨災害で被災した岩手県のJR岩泉線の廃止が打ち出されたほか、福島・新潟にまたがるJR只見線の一部区間も運休したままということも忘れてはなりません。
3線の復旧問題は、地方の公共交通をどう支えていくのか、根本的な問題も投げかけています。

(松本浩司 解説委員)