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やぎさんゆうびん

 白やぎさんからお手紙着いた/黒やぎさんたら読まずに食べた…童謡「やぎさんゆうびん」は「さっきの手紙のご用事なあに」と無限にやりとりが続く。きりがない歌詞に、子ども心に白黒つかずモヤモヤした覚えがある▼竹島の領有問題で、野田佳彦首相の親書が、日韓両国を行ったり来たりした。手紙を突き返す振る舞いが礼を欠くのは無論だが、返しに来た外交官の門前払いはどうなのか。「子どものけんか」次元の応酬は国際社会から失笑を買う▼相互理解に至らなくても、手紙のやりとりを律義に続ける白やぎと黒やぎの姿勢の方が、礼にかなっている。時間がかかっても粘り強く交渉し、対立激化を避ける。外交の要諦に通じるといえば大げさだろうか▼礼を説き、哲学にまで高めた孔子は母国の内戦や戦乱で亡命を繰り返した。礼には衝突を避ける深い知恵がある。論語は「非礼勿視」、礼にあらざれば見るなかれと教える▼漢字学の故白川静さんによると、論語のこの節は、高い人道主義に立つための自己抑制を説く。儒教を尊ぶ歴史を共有する日韓が溝を深めている姿にはため息が出る▼さて、やぎの手紙の往復が続く理由は、食べ物の交換だから、ともいえそうだ。外務省なら「互恵関係」と呼ぶかもしれない。芸術や科学技術、経済…日韓ならもっと、実りある交流を深められるはずだ。

[京都新聞 2012年08月25日掲載]

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