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【読谷】「多くの人が亡くなり、残された人の生きる道筋が見えない中、私のできる最善の演奏を届けたい」―。東日本大震災で被災し、仙台市青葉区から那覇市に移住したプロのバイオリン奏者、大友幸(さち)さん(33)は8日、読谷村喜名で開かれた「喜名かんのん堂 森の音楽祭」に出演し、鎮魂のメロディーを奏でた。同市泉区から宜野湾市に避難したプロのピアニストの福岡暁美(あけみ)さん(46)=がサポートを務めた。2人の万感を込めた演奏に、多くの聴衆が静かに耳を傾けた。(磯野直)
3月11日、大友さんは仙台市のコンサートホール楽屋にいた。メンバーの携帯電話から一斉に緊急地震速報が流れた数秒後、経験したことのない揺れに見舞われた。コンサートは中止、自宅マンションも半壊した。
家族はバイオリン奏者の夫と、小学校1年の長女と4歳の長男の3人。絶え間なく続く余震と、全く予想ができない放射能汚染の行方に「仙台で、子どもを守り切る自信がなくなった」と振り返る。
5月、夫を仙台に残し、3人で那覇市に移住。現在は市内でバイオリン講師を務めている。被災地のニュースを見るたび「私はこの地に残って演奏するべきではなかったか」との後悔にさいなまれたという。
「森の音楽祭」では「G線上のアリア」「赤とんぼ」「青葉城恋唄」などを披露。最後は「You Raise Me Up(神よ私を奮い立たせたまえ)」で締めくくった。
大友さんは「きょうの演奏で、抱えていた後悔を吹っ切ることができた」と感慨深げ。「被災地の外から見えることがいっぱいある。東北の人は政府に対策を任せっぱなしにするのをやめて、もっと自分たちの力でSOSを発信しないといけない。私は沖縄からその手助けをしたい」と力を込めた。
共演した福岡さんは現在、宜野湾市で愛犬と暮らしながら北谷町でピアノ講師をしている。「東北の心の痛みと沖縄の抱えている痛みが重なり、演奏中に何度も涙が出た。聴いてくれた皆さんに感謝したい」と目を潤ませた。