2011年06月23日 (木)

【山崎解説:高速増殖炉「もんじゅ」の事故とは?】

福井県敦賀市にある、高速増殖炉「もんじゅ」で、原子炉内に落下した装置を引き上げて回収する作業が、きょう(23日)午後から予定されていましたが、準備が整わず開始が遅れています。(午後7時現在)

「もんじゅ」が抱えている問題とは?怖がるポイントとは?山崎記者のミニ解説です

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まず高速増殖炉とは何か。
一般の原発で使い終わった使用済みの核燃料を有効利用しようと、国と原子力研究開発機構が研究開発してきた原発で、まだ実用化の前の段階です。
核燃料の有効利用とは、簡単に言いますと、現在、各地にある一般の原発で使い終わった使用済みの核燃料を、特別な工場(青森県にある再処理工場)に持ち込み、細かく砕いて化学的に処理することで、プルトニウムを取り出します(これを再処理といいます)。取り出したプルトニウムは核燃料として使えるので、再び原料として核燃料に加工して再利用しようというものです。
資源の少ない日本は、このように核燃料を少しでも有効利用しようと国の政策として昭和40年代から高速増殖炉の開発が進められてきました。

渦中の「もんじゅ」とは
実用化にむけたデータを取るためにつくられた「もんじゅ」は、1995年、運転を開始していよいよ出力を上げようとしていた途中で配管から液体のナトリウムが漏れ出す事故を起こして運転を停止。

その後、地元の理解が得られなかったり、改修工事が必要になったりして、運転再開は延期に延期を重ね、ようやく昨年5月、14年半ぶりに運転を再開をしました。しかし、その3ヶ月後に核燃料を交換する装置の一部が原子炉に落下するトラブルを起こし、再び運転を止めたのです。
今回のもんじゅの作業は、この落下した装置を引き上げるためのものです。

引き上げ作業は
落下した装置は、もんじゅの縦長の核燃料を原子炉に入れたり出したりするためのもので、長さ12メートル、重さ3トンあまりある棒状の形をしています。トラブルの原因は、装置を据え付けていた部品が長年の利用でズレて外れてしまったもので施工不良と見られています。装置が落下したのは、原子炉内の燃料交換をするスペースで、核燃料そのものの破損はありませんでした。しかし、装置の蓋の部分が引っかってしまい、簡単に引き上げられないことが判明。炉から引き上げるためだけに、特別な機械を準備するなどして、9ヶ月かかってようやく今回の引き上げ作業となったものです。
このトラブルで、開発スケジュールが延びていますが、原子力研究開発機構では、落下した装置を引き上げた上で、来年3月には、再び運転を再開して将来の実用化に必要なデータを集めたいとしています。

高速増殖炉の問題は

しかし、高速増殖炉の開発については、根強い反対や心配の声もあがっています。
それは、今回のトラブルの背景福島第一原子力発電所の事故が大きな理由です。

東日本大震災の発生で、自然災害に対して原発は本当に大丈夫なのかが、改めて問われています。開発中の高速増殖炉も例外ではありません。プルトニウムを燃料に使うという意味では、より慎重で厳しい対応が求められています。

「敦賀半島では大きな地震は起きないのか?」

「仮に起きたとしても原子炉を緊急に冷やせるバックアップの設備は充分に整っているのか?」

 「津波に対しての想定は充分なのか?」等々、

大震災を受けて地元はその再評価を求めています。

もんじゅは、一般の原発と違って、原子炉の冷却に水ではなく液体ナトリウムを利用しています。この液体ナトリウムは、漏れて空気と触れたり水と接触したりすると爆発的な反応を起こします。水素の発生もあります。国と原子力研究開発機構には、こうしたもんじゅ特有のリスクにも答えていかないといけません。

そして、もうひとつ指摘しておくべき課題があります。それは今回のトラブルの背景に関わるものです。不幸中の幸いと言ってよいのかわかりませんが、装置の落下による原子炉容器の大きな破損はないと見られています。また核燃料も壊れることはありませんでした。が、それはあくまで結果オーライといえます。原子炉という重要なエリアで起きたことを関係者は、重く受け止める必要があります。先ほども言いましたが、落下の原因は装置の取り付け部分のズレ。後からわかったことなのですが、この装置を担当したメーカーの類似の製品には、ズレを防止する部品がついてあったといいます。なぜ、事前の点検で、こうした問題を見つけられないのか、また、そうした情報が上がってこないのか。お粗末としか言いようがありません。ここが原子力業界の抱える問題です。

もんじゅでは、16年前の事故以降、建設にあたった主要な国内大手メーカーも参加して何度も設備の安全点検が行われ、改修工事も実施しました。そこでリスクを見つけきれなかった。他にも隠れた不具合や不備が残っているのではないか、皆が心配になるのは当然です。事故が起きてからでは遅いのです。

「新しい原発を開発するリスクを本当に管理しきれるのか?」 国と原子力研究開発機構は、この問いを突きつけられています。私たちは、将来的なエネルギーを今後どこに求めるかを考えると同時に、国の開発体制そのものも注視していく必要があります。

投稿者:かぶん |  投稿時間:20:30  | カテゴリ:ニュース解説
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コメント(24)

23日はもんじゅの引上げ作業があるというのに、
マスコミはまたもスルーかな・・・と落胆しておりましたが、
かぶんさん!山崎記者!ありがとうございます!良い記事です!!!
福島も大変ですが、もんじゅはいろいろといわくのある危険な原子炉です。
この原子炉のトラブルをめぐり二人の方が命を落とされています・・・。
絶対に稼働させてはなりません。
NHK様、ぜひもんじゅのことも詳しく取材をお願いいたします。
マスコミに不信感を抱いておりましたが、
かぶんさんのお仕事には希望を託したいと思います。
今夜は徹夜で作業の行方をネットから監視するつもりです。

投稿日時:2011年06月23日 22:07 | 都内在住

14年も使用不可能だった機械を無理やり稼働させなければならない理由がわかりません。技術的に無理なプロジェクトだったのではないでしょうか?

また、この計画に今までいかほどの予算がつぎ込まれてきたのか、これからの見通しはどうなっているのか、誰が責任者であるのか、なども併せて解説いただければと思います。

投稿日時:2011年06月24日 09:00 | オリーブ

もんじゅの事故は以前から気になっていました。今回の核燃料交換装置の取り出し成功はよかったですが、冷却にナトリウムを使っているリスクは福島以上であると思います。人間が作ったもの、動かすものはどんなに注意してもミスはあるもの。原子力政策の見直しが第一ですが、いづれにしても地震国日本では原発は危険すぎると思います。

投稿日時:2011年06月24日 10:42 | 田辺 明

分かりやすい良い記事をありがとうございます。
こんなに無駄で危険なものが大した議論もなく再稼働させるなんて信じられません。

引き抜きが失敗したら、もし事故が起こったら
近畿全体の水がめが汚染されてしまいます。

そうなったら誰も責任が取れません。
なおせないものを壊すのはやめてください。

投稿日時:2011年06月24日 11:11 | 大阪在住

京都市在住の会社員です。
とりあえず、もんじゅで事故が起こらなかった良かったです。
この取り出し作業で万が一の想定外の事故が発生した場合、最悪どの辺りまで避難する必要があったのでしょうか?
息子は彦根の大学に通ってますので、敦賀は近いです。
この辺りの情報が判らず不安でした。

投稿日時:2011年06月24日 11:53 | 田島廣巳

維持費に1日に5,500万円の税金が使われていることは言われないんですか?

投稿日時:2011年06月24日 12:00 | 23区在住

もんじゅ、今回の自己の修復に税金から9億円が支払われたと聞いています。年間何億円と維持費にかかり、未だ電気を1Wも作れていない。廃炉にするにも大変なお金がかかるそうですが、それでも早く廃炉への道を歩みだしてほしいものです。分かりやすい解説をありがとうございます。

投稿日時:2011年06月24日 13:03 | 野崎洋子

40年前の計画を、今だに推し進める理由は何?
時には撤退する勇気も必要です。
福島で原発事故が起きた今、
是非もんじゅを取り上げた番組を作って下さい。

投稿日時:2011年06月24日 13:36 | 神奈川県在住

原発は背景に核による世界のパワーゲームなのだということ。
その背景ゆえに廃止出来ない。その事業による一部の人達へ大量のお金が回ってる事。
そんな核兵器につながるいろいろを思ってしまうんですが…。
新たな安全なエネルギーに期待しつつ、核兵器につながる事がないことを信じたいものです。

投稿日時:2011年06月24日 15:59 | 池上慶一

プルトニューム原子炉は資源のない日本にとっては必要な原子炉で、早く実用化されればいいと思ってきましたが、今回の原発事故を見て絶対安全ということはそれこそ絶対にないことが分かりました。まして、液体ナトリュームの危険性を考えれば、すぐにやめるべきだと思います。
 今後も分かりやすい解説をお願いします。

投稿日時:2011年06月24日 16:28 | 佐藤宏希

実際のフタの引き上げですが、6/23の午後八時過ぎから行い、8時間かかるとの報道がありました。

で、結果はどうなったのか?
とても気になっています。なぜ報道はないのでしょうか?

フタの引き上げに成功したら、今度こそ廃炉にしていただきたい。

学生の時、ナトリウムが空気に触れた時、激しく燃焼する様子を、理科の実験で見ました。
そんなものが沢山詰まっているなんて…想像しただけで恐ろし過ぎます。

現状の維持費に一日5500万かかっているそうですが、それは何の費用ですか?
そのお金はどこに流れているのですか?調べて下さい&教えて下さい。

投稿日時:2011年06月24日 17:59 | mamakomama

引き上げ、成功したんですね。ほっとしました。

でも、ニュースに余り大きく取り上げられていないのはなぜなんでしょう??

今回、引き上げ作業が深夜にずれ込み、関西に住む私はとてもこわかったです。
福井の人はもっともっと恐ろしかったでしょうね。

本当にこわい事は報道されないんだ、というのが一番怖い事ですが、
今現在がそういう状況である事が、残念ながら事実なんですね。

投稿日時:2011年06月24日 22:27 | mamakomama

とても、わかりやすかった。
ありがとうございます。
ずっと、長く取材をお願いします。
見守っています。

投稿日時:2011年06月24日 22:58 | フクシマ→京都

山崎さん、いつも的確な解説をありがとうございます。

もんじゅの最新の内部映像を他局の女性リポータが見せてくれている動画がネットにあり、両方合わせると理解が増した気がします。

さて、ふく1の方ですがストロンチウムが出ているらしいですね。

また民放を持ち出して恐縮ですが、朝日の報道ステーションのアップ動画「遮水壁=地下ダム費用公表せず:債務超過懸念で先送り」を見ましたら大変な状況で、早急に対処が必要とリポータもかなり緊迫した口調でした。
解説は「たね蒔きジャーナル」でもお馴染みの、京都大学)小出助教がされていました。

 http://www.youtube.com/watch?v=IPXD_zpeITM

この遮水壁の件は東電の工程表にもあり、細野さんも統合会見のばで見解を示しているようですね。

後手後手の東電は本件でもぐずぐずしているようですし・・

NHKでもきちんと取り上げていただき、国家的取り組みが始まることの後押しをすべく、よろしくお願い致します。

投稿日時:2011年06月25日 00:32 | フラストレーションの塊ha

「私たちは、将来的なエネルギーを今後どこに求めるかを考えると同時に、国の開発体制そのものも注視していく必要があります。」

あれ、「私たち」とはだれ?NHKはリーダ気取りですか?おこがましいです。

投稿日時:2011年06月25日 04:39 | 安藤和浩

とりあえず作業が無事に終わった事はホッとしました。寝てる間に
東からも西からも放射能汚染なんてごめんですから。

でも本当にこんな長い間に続くトラブルのもんじゅを動かす意味は
あるんでしょうか?毎日莫大な税金をかけて危険極まりないまだ
技術として未完成な物を動かす意味が。

もう「もんじゅ」については諦めて廃炉にしてもいい頃だと思いますが。

投稿日時:2011年06月25日 12:36 | せがわ

カブンさんの記事、一般に報道が貧しいといわれる中で もんじゅの厳しい情報を細かく知らせていて、評価されるべきです。組織の圧力だとか いろいろ 報道が規制されてる様を聞きますけれど、要は 最前線に立つ記者、デスクの 事実を求める気概だと思います。一層のご精進をお願いします。 

投稿日時:2011年06月25日 23:59 | 引退老人

「もんじゅ」の引き上げ作業に関して、詳しく解説していただき、さすがNHK「かぶん」と感謝です。
福島の事故が起きた中で、「もんじゅ」の作業がどのようにマスコミに取り上げられるか、注目しておりました。
福島の事故にしろ、「もんじゅ」の今後にしろ、国民一人一人が、専門家に任せっきりにせず、しっかり感心を持って注目していくことが、今後の日本のエネルギー政策につながると思います。
今後も、原子力を含む、私たち一般人には、技術的に難しい、でも理解して判断していかなくてはならないニュースを、わかりやすく、解説していただきますよう、NHK「かぶん」、がんばって下さい。

投稿日時:2011年06月26日 00:33 | 望月克哉

原子炉、高速増殖炉どちらも、単にお湯を沸かして蒸気タービンを回すだけのことです。人口が減って、納税者も少なくなり、高齢化を迎えるたそがれの国家が、莫大なお金を使う正当性は無いと考えます。民間の発電会社では採算が取れないのです。日本国内で複数のもんじゅが稼働して、うまくいったとしても輸出先はありません。外貨を得ることも不可能です。私たちの都市の今ある繁栄は、朝鮮戦争以来の日本が長年かかって蓄積した外貨そのものです。インフラ、教育、高層ビル、道路など都心のすべてのシステムに外貨が形を変えただけなのです。
 大きな社会システムの中での電力供給の未来ビジョンを、成熟した市民社会が選ぶべき時期に来ていると思います。

投稿日時:2011年06月28日 19:30 | BrownNorway

ていねいな解説ですね。ただ、「怖がるポイントとは?」というからにはもう少し突っ込んで説明して欲しいところがあります。

緊急の事故が起こったときに、「安全に冷やせるのか」という点です。解説の中にも触れているとおり、もんじゅは水で冷やせない。「もんじゅ特有のリスクにも答えて」などと曖昧化してはダメです。

福島第一原発等の他の原発は、海水を注入するという非常手段がとれます。ではもんじゅの液体ナトリウム冷却の仕組みにエラーが起こったときには、どのような冷却手段がとれるのでしょうか。

とうぜん取材をしているはずです。答えは「現状ではとるべき手立てがない」というのが解答だったのではありませんか?
だから、「特有のリスクにも答える必要がある」という表現なのではありませんか?

わたしの素人故の杞憂ならうれしいです。
こういう表現では、かえって取材結果の隠蔽を疑われます。
もし実際にそこまで取材できていないなら、マスメディアとしての監視機能のレベルが問われます。ぜひ追加の報道をお願いします。

投稿日時:2011年06月30日 12:17 | 宗我部義則

無事に作業終わったということですが、
今までの隠蔽や捏造など、全く信用はしていません。
非常に危険な「もんじゅ」は、必要ないかと。

投稿日時:2011年06月30日 17:18 | 藤内

これしらなかった。貴重な情報をありがとうございます。
2010、8,26、からのこと? 知らなかった。NHKはなぜ報道しなかったの?他のメデイアもそうだが。2010,8月なら、民主政権だよなあ。
 いつから、メデイアの規制が厳しくなったのか?ねえ。
 憲法も変わっていないが。どこかの力の作用? それもあり得るなあ。だが
 高速炉、民主政権なのに。高速炉の成功(=人が、御しきる)なら、結構とも見えますが。前回のも、炉の周辺のくだらない事故だった。
 今回のはものすごくきわどい様ですが。それでも、膨張や、固着(金属表面の電子的吸着と言いますか?)で、高速炉の反応の制御からは外れたもので、下らない。
 こういう下らない失敗をするのが人の常です。
 小生の”主義・信仰”は、「核と遺伝子は、神様の世界だ」と、言うこと。
神様は何もかも、ご存知だし、想定外なんぞは、言わない。
 こざかしく人類が、手を出すなら、覚悟が要る。「何事も、人のため、しかも想定外はない」との責任感があるか、無いか、だ。

投稿日時:2011年07月11日 22:13 | 放送大生

もんじゅ高速増殖炉の最新ニュース

http://ggtms.com/p/gpmonjyu.html

活用いただければ幸いです。

投稿日時:2011年07月30日 17:26 | ガイガータイムズ

昭和40年代から原発の開発が行われてきたというが、そもそも最初に行うことは放射能を統制する技術を確立することが大前提ではないだろうか。ただ単に箱ものだけでは危険は回避されない。約半世紀で現在の状況では心もとない。

投稿日時:2011年08月09日 06:05 | 手塚正男

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