都留市出身のジャーナリスト・山本美香さん(ジャパンプレス記者)が、七日、富士女性センターの人権学習講座で、『山本美香が見た戦火のバグダット〜緊急リポート』と題し語った。
山本さんは、これまでアフガニスタンなど世界の紛争地域で取材を重ね、今年三月イラクに入った。そして、米英軍の武力行使にさらされ、現地の状況をビデオを通して伝え続けた。
講演では、自ら撮った写真を紹介しながら、『起こすべきではなかった戦争!』と、言葉を噛みしめ語った。「一体そこで何が起きているのか?戦争の現実を第三者の目で多くの人に伝えたかった。」「イラクにいる間、連絡をとることが困難で、家族や友人・知人に心配をかけた。戦火の中、故郷の皆さんの励ましが心の支えとなった。」と、山本さんは語る。
「チグリス川が目の前に流れる景色の良いパレスチナホテルに滞在したが、その景色は、開戦してから一転空爆の海へと化した。対岸に建つフセイン大統領宮殿は、アメリカ軍により攻撃され、約五百メートル離れたホテルは爆弾の威力で揺れた。爆風で髪の毛がなびき、はっきり言って怖かった…。」夜、ホテルが半日にわたって停電したこともあり、『真っ暗闇の恐怖』を味わった。ホテルに限らず、全地域で起こった停電は、新型のブラックアウト爆弾によるものと騒がれた。この爆弾は、発電所の施設をショートさせるもので、人々に恐怖を与え、生活を混乱させた。暗闇の中、市民の元へと足を運んだ山本さんは、「湾岸戦争以来の暗闇でとても不安だ…。」という声を聞いた。
その後、しばらくは空爆の恐怖により、眠れない日々が続いた。しかし、不思議なもので次第に状況に慣れ、また緊張による疲れの為、睡眠はとれるようになったという。(空爆の音で起こされる日々は尚続いたが…。)
そして、忘れもしない四月八日、同ホテルで取材しているロイター通信記者を砲弾が直撃した。隣のベランダにいた山本さんはすぐさま救護に駆けつけ、顔馴染の記者が死にゆく姿に触れた。山本さんは普通の精神状態ではいられず、泣き叫び、「これが戦争なんだ!」と実感した。恐怖は次第に怒りへと変わり、「人間のモラルを打ち砕く『戦争の事実』を暗闇に葬ってはいけない。」と命の危険を感じながらも、バグダッドで取材を続けることを決意した。「空爆は米英側、イラク側、どちらが被害をもたらしたのか?ということよりも、目の前で人々が死んでいるという現実があり、戦争そのものがいけないんだ…。」
その後、サダム国際空港はアメリカ軍により制圧され、抗戦していたイラクの市民たちは次第に武器を捨て始め、米英軍の武力行使にじっと耐えるばかりだった。市民は攻撃の恐怖に怯え、「青年でさえ攻撃の音を聞いて恐怖を感じ、母親の服の裾を掴んで放さなかった。」「空爆の音を聞かないように、最大の音量で音楽を一日中かけていた。」など市民の声も聞いた。固く閉ざしていたフセイン政権に対する不満も囁かれるようになった。
やがて、戦争は終結を迎えたが、住宅地にも新型の“地雷”(クラスター爆弾)が埋まるなど戦争の爪痕は痛ましかった。『プライドを打ち砕かれてしまった』イラク市民の心の傷を知るにつけ、『無意味だった戦争!他に選択肢はなかったのか?』と、山本さんは憤る。
「一人の人間として世の中が平和になってほしいとつくづく思う。今後も、戦争から逃れられない市井の人々の苦労や訴えを正直に伝えていきたい。」と講演を締め括った。山本さんは、七月に再びイラクを訪ね、庶民の暮らしや願い、女性たちの心の内を聞き、復興に向けての課題を探る。
※当日の来聴者は二百八十人を数え、講演後、感想を求めると、「グローバルな視点から世界をとらえる美香さんの毅然とした話しぶり、優しい眼差しに感動した。」などと、答えてくれた。
【取材】坂本 慶子
※編集部新人の坂本さんは、四年間、沖縄国際大学で学びこの春帰郷しました。フレッシュな感性・ パワーに、御期待下さい!
※山本美香著「中継されなかったバグダッド」(小学館・定価1000円)、7月7日発売!
…唯一の日本人女性記者現地ルポ〜イラク戦争の真実
「究極の現場、命がけの戦争取材。本物の記者にしかできない仕事だ。」(ジャーナリスト・櫻井よしこ)