世界の中の日本

「北方四島を日本に返すべし」と唱えるロシア人学者

国境と国益(第12回)

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(3)結果として、ソ連軍は米軍進駐前に千島諸島全体を占領するために強引な軍事行動を実施し、すでに日本が降伏を表明していたのに、8月18日には千島最北方の占守(シュムシュ)島に砲爆撃の後、強行上陸して戦闘を惹起し、相方に多大の犠牲を出し、さらに9月2日の降伏調印式後も色丹、歯舞への軍事行動を継続した。

 これらのソ連軍の行動は、すでに米英との対立が始まり、戦後の冷戦状況の萌芽が生まれる中、少しでも自国の軍事戦略に優位な地歩を得るためのスターリン政府による大国主義的思惑に基づくものだったのだ。

 いわばこうした「領土拡張主義」政策は、終戦時における無駄な犠牲を余儀なくさせた上、長年にわたる日ロ関係発展の阻害要因を生み出すこととなった。

「北方四島返還こそロシアにとっても実利をもたらす」

 8月18日から23日にわたった占守島の攻防戦では、8800名余のソ連軍攻略部隊のうち1567名、約2万名いた日本軍守備隊では1018名の死傷者を出した。これは、ソ連軍部隊にとって8月9日以降に対日作戦に従事した中で最大最悪の損害だった。

 スラヴィンスキーはこう嘆いている。「戦争がすでに事実上終了し、日本の無条件降伏文書が公式に署名される日を指折り数えて待つ状態にあるとき、双方が膨大な人的・物的損害を出す軍事的・戦略的必要性がどこにあったのだろうか」(前掲著書)

 ちょうどソ連が崩壊した後に著作をものしたスラヴィンスキーには、以上の経過の中で無理押しに占領された北方四島を日本に返還してこそ、真の平和的国際関係が形成されるし、冷戦を本当の意味で終結させることができると考えたのだ。

 彼は著作を次のような言葉でまとめている。

 「・・・これは経済、科学技術、文化の分野において露日間に長期にわたる、大規模な協力関係を打ち立てる道を開くものであり、ロシア極東の諸地方および諸州の経済発展を安定化させる上でも重要な要因となるであろう」

 「日本に対するこうしたロシアの外交路線が全世界の好意的な反応をうることは、疑いの余地がない。これによって第二次世界大戦の終止符を打ち、『冷戦』の対決の時代を終わらせ、露日関係に新しいページを開くことができる。これはロシアの権威を高め、アジア・太平洋地域全体に新しい国際秩序を打ち立てる上で重要な貢献をなすものである」(前掲著書)

 「北方四島返還」こそ、ロシアにとっても実利をもたらし、真の権威を高めるものである──こうした議論がロシアにあることは、銘記すべきだ。

(文中敬称略)

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