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キネマ旬報が選んだ歴代ベストワン|邦画・洋画

チョビ髭、山高帽、どた靴にステッキ姿でおなじみのチャップリンが、1923年に『巴里の女性』という悲恋映画を製作している。それまで70作余りの喜劇を監督し、自ら主役を演じてきたチャップリンにとっての異色作だが、本人はチョイ役でしか出演していない。キネマ旬報 2011年 1/1号 [雑誌]

「喜劇王」として君臨する一方で、チャップリンにはシリアスドラマを作りたいとの長年の構想があった。それと同時に『巴里の女性』製作の背景には、チャップリンの初期の映画の相手役を務めてきたエドナ・パーヴァイアンスの存在がある。パーヴァイアンスが歳を取り過ぎて、もはやコメディには向かないと感じたチャップリンは、それまでの自分への貢献に報いるために、この映画の主役に彼女を起用し、新境地を与えようとしたのだった。

生涯に結婚と離婚を繰り返し、その他の女性とも奔放に恋愛を重ねたチャップリンだが、映画の撮影期間中は仕事に専念し、公私を厳しく律するのが常だった。しかしながら『巴里の女性』の製作準備が山場を迎えたとき、チャップリンは、ルドルフ・ヴァレンチノとの艶聞でも知られるポーランド生まれの女優ポーラ・ネグリと激しい恋愛に身を委ねている。ネグリと寄り添う姿を異例にもマスコミに晒していた。そして撮影が終了するとほぼ同時に、彼女と別離している。ヨーロッパ女性との恋愛を敢行することで、ドラマの主人公のイメージを自分の中に膨らませ、製作意欲を掻き立てていたのか。

結果としてこの映画は興行的に大失敗した。喜劇人チャップリンの抱腹絶倒の演技と風刺に富んだストーリーを期待したファンに、チャップリンの登場しない芝居は興味を呼ばなかった。チャップリンは深く傷ついたという。パーヴァイアンスもその後、パッとしなかった。

しかし、従来のステレオタイプのメロドラマを覆す人物描写や演出等、チャップリンの才能が専門家にはあらためて賞賛された。そしてこの映画こそ、1923(大正12)年、第1回キネマ旬報ベスト・テンの第1位に選定された作品である。

キネマ旬報ベスト・テン(キネマ旬報賞)は今年で84回を数え、その歴史は米アカデミー賞を上回る。その伝統と共に、興行成績や業界の思惑とは一線を置きながら、作品の質を何より重視した厳正かつ公正な審査が、当年の映画界の実勢を反映する最も中立的で信頼に足る映画賞として専門家とファンに評価されている。

Posted: 22 January 2011

References: キネマ旬報ベストテン・歴代ベストワン作品データ
Charlie Chaplin : A Woman of Paris

 

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