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【社説】

いじめと闘う 現場の努力に尽きる

 大津市の中学生が自殺した問題をきっかけに、警察にいじめの捜査を求める動きが相次ぐ。事なかれ主義に陥りがちな学校への不信感の表れだ。いじめとの闘いから逃げるのは教育の敗北に等しい。

 東京では高一の男子が首を絞められ、殴られたとして暴行容疑で警視庁に届けた。愛知では中二の女子が「死ね」「うざい」と暴言を吐かれ、適応障害になったとして傷害容疑で県警に訴え出た。

 警察にいじめの被害を届け出る子どもたちが全国各地で引きも切らない。泣き寝入りを強いられた過去のいじめの責任追及を求める動きさえ目立つ。

 「力が弱い・無抵抗」「いい子ぶる・生意気」「態度や動作が鈍い」。警察庁によれば、いじめを発端とした事件にはそんな動機が多いという。からかいや悪ふざけ、腹いせが凶悪化していく。

 警察が本格的に介入するのはいじめが傷害や暴行、恐喝といった犯罪行為に発展してからだ。被害者はすでに心身に深手を負い、自殺のリスクに直面しているかもしれない。それでは遅すぎる。

 いじめがエスカレートする前に食い止めるのは教育の使命だ。

 よそから与えられた対策マニュアルが本当に役立つかは大いに疑問だ。子どもは一人ひとりみんな違う。すべては学校現場それぞれの努力にかかっている。

 例えば、周りの子どもたちの力を借りてはどうか。

 茨城の筑西市立下館中学校では子どもたちが自主的に「君を守り隊」を結成し、いじめの防止に取り組んでいる。十六年前、いじめを苦にした自殺が多発したころに生徒会の呼びかけで発足した。

 相談箱を置き、学校生活での悩み事を尋ねるアンケートを毎月して問題を抱えている子どもに対応する。全校でゲームを通じて思いを語り合ったり、パズルを一緒に作り上げたりしてコミュニケーションを図る機会を設ける。

 先生が一方的に指導するのではない。大切なのは、子どもたちが主体となって胸の内を打ち明けられる人間関係を築く努力を積み重ねていることだ。いじめはなくならない。だが、これまで事態が深刻化したことは一度もないという。

 中学生の息子を自殺で亡くしたNPO法人「全国いじめ被害者の会」代表の大沢秀明さんは「加害者を処罰するよりも、非を認めて謝罪するよう導いてほしい」と言う。その願いに応えられるのは警察ではない。教育だ。

 

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