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『アギト』の撮影システム

【THE MAKING OF AGITO 外伝】

「ハイビジョンなの? 違うの?」

放送スタート以来、お問い合わせの多いポイント。

答えから言いますと、アギトのTVシリーズは、ハイビジョン撮影ではありません
しかし、単に気どって上下に黒味を入れているわけでもありません。

ちなみに、厳密に言えば、前作『クウガ』も“ハイビジョン撮影”ではありません。クウガが採用したのは“HD1080/60i”という方式ですが、これを「ハイビジョン撮影」と言い切ってしまいました。
新しい番組をつくるには、視聴者にもスタッフに対しても、一般受けする旗印が必要です。“ハイビジョン撮影”と言われるから「おお!」と思うのであって、“HD1080/60i 撮影”と言われても、ピンと来ませんよね。(^^;
クウガという番組には、そういう“旗印”が必要だったのです。

けれども、ヒーロー番組に風穴を開けるという目的は、クウガで充分に達成されたと考え、アギトでは名よりも実を取ることにしました。
たとえば、その一つが、“スクイーズ収録”です。
この方式の最大の特徴は、「誰も聞いたことがない(笑)」の一言につきます。

スクイーズ方式とは?

メリット・デメリットが分かりやすいように、前作『クウガ』と比較しながら説明してみましょう。

『クウガ』方式

撮影 編集 放送
HDTV SDTV SDTV

『クウガ』では、おもに HD カメラで撮影した素材を、SDTV(普通のテレビ方式)にダウンコンバート(変換)して仕上げを行なっていました。だから、“ハイビジョン作品”ではなく“ハイビジョン撮影”なわけです。
※ 『クウガ』の撮影スタイルについては、こちらにも解説があります。

16:9 の撮影素材(HDTV)を 4:3(SDTV)に変換して仕上げ作業に入るため、上下の黒い帯の分、SDTV 上での情報量が減ります。また、ダウンコンバートにコンポジット方式(色信号と輝度信号を同時に処理する)を採用してしまったため、合成のクォリティが下がってしまいました。
そうしたことから、HD 撮影でありながら、カットによっては普通の番組よりも画質が劣るという悪循環が続いてしまいました。

『アギト』方式

撮影 編集 放送

前作の反省を踏まえ、『アギト』では、コンポーネント方式(色信号と輝度信号を分離して処理)で一貫することで合成カットのクォリティを高める一方、上下の黒い部分のキャパシティを捨てずに使うことで、全体的な画質を高めようと考えました。
16:9 の画面を特殊カメラで上下方向に伸長し、4:3 で収録することで、他の番組に比べ、画像エリアの情報量を約35%upさせる───これが“スクイーズ収録”方式です。

アギトで使用しているカメラ。

撮影から仕上げまで、スクイーズモードで一貫して作業することで、通常の SDTV を超える情報量を維持します。放送段階で上下方向に圧縮することにより、画像エリアの映像は、他の番組よりも密度が高くなります。
また、スクイーズモードに対応するメディア(DVD など)では、放送よりもさらに高精細な映像が得られることになります。

もう一度、おのおののメリット・デメリットを整理してみましょう。

メリット デメリット
クウガ方式
  • 高精細な撮影素材。
  • 将来的に、HD 作品に作りかえることが可能(『HD 特別版(仮)』が好例)。
  • 撮影機材が限定され、演出上の制約が多い。
  • 工程が多いので費用がかさみ、画質も劣化する。
  • 現行放送上は、合成カットなどの画質は悪くなる。
  • HD 作品に作りかえるには、
    1. 来たる日まで、すべての素材を保管・管理しなければいけない。
    2. 機材の制約で HD 撮影できなかったカットは撮り直さなければならない。
    3. CG や合成・編集は、ゼロからやり直さなければいけない。
アギト方式
  • 現行放送としては、高精細な映像が得られる。
  • 機材が豊富なので、演出の自由度が高い。
  • DVD 化した時には、放送以上の画質が期待できる。
  • HD 作品に作りかえることは不可能。

一言でいえば、「未来に夢を託したクウガ方式」「現在だけを見つめるアギト方式」ということになるでしょうか。

現行放送上では、アギト方式は、クウガ方式よりも画質が向上するだろうという目算がありました。けれども、結果として合成カットなどを除いて、せいぜい同等レベルにしかなっていません。やはり、クウガの HD カメラの分解能が、アギトの SD カメラを数段上まわっているため、元素材の高精細さがモノを言っているのでしょう。
つまり、アギト方式も完全ではなく、まだまだ検討の余地があるということです。その辺を検証すべく、たとえば『アギトスペシャル』で初お目見えした新オープニングは、後者の方式(HD1080/60i で撮影→編集→仕上げ→ダウンコンバート)でつくられています。

さらに未来へ!

クウガ方式の最大の功績は、本当は画質うんぬんではなく、「俺たちは新しいことに挑戦しているんだ!」と、スタッフ&キャストの意識が高まったことと、その熱気が視聴者に伝わったことでしょう。
そういった「思い込み」や「勢い」こそ、番組制作にとって最も大切なことではないでしょうか。その勢いに乗って、東映ヒーローもの初の同時録音を実現させたのも、『クウガ』の功績の一つです。
クウガにおける“ハイビジョン”導入の効果は、画質面よりも心理面において、はかり知れないものがあります。

そういった前作からの熱気を受けて、少しでもクォリティの高い番組をお届けするための努力と試行錯誤を、不断につづけています。
機会があったら、またご紹介してみましょう!

(2001.11.4 一部改訂)

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