『PlayStationRVita』(PS Vita)の3Gネットワークをいかし、新たなゲームを提案するクリエイターたち。ガスト、セガ、バンダイナムコゲームスのディレクター&プロデューサーによる座談会後編は、ゲームとネットワークの今後、『PS Vita』の未来について語っていただいた。
株式会社ガスト
『シェルノサージュ』ディレクター
土屋 暁
発売日:発売中
価格:5040円(パッケージ版)/4200円(DL版)
ジャンル:7次元コミュニケーション
メーカー:ガスト
『PS Vita』の向こう側で暮らす少女イオンと触れ合う、リアルタイム・ライフ・シミュレーション。イオンは24時間サイクルで生活しているので、時間によって食事、工作、睡眠など異なる行動を取っている。3Gネットワークを利用し、外出先や移動中にふと起動すれば、いつもと違うイオンの表情が見られるはずだ。また、イオンは過去の記憶を失っているため、“夢セカイ”で彼女の心を修復する必要がある。少しずつ記憶を取り戻し、ドラマティックなシナリオを進行させよう。
「ネットワークでアップデートしていくため、終わりのないゲームになっています。イオンも成長しますし、ゲーム自体も日々進化。毎日少しずつ遊んでいただくことを目的としているので、他のゲームの合間にふと“イオンは何をしてるかな”と覗いてみてください。ダウンロードコンテンツも、まだこれからどんどんリリースしていきます。末永くユーザーさんといっしょに楽しみたいと願っています」(土屋)
株式会社セガネットワークス
『サムライ&ドラゴンズ』プロデューサー
山田理一郎
発売日:発売中
価格:3990円(豪華特典付きデラックスパッケージ版)/無料(DL版)
ジャンル:アクション&モンスターバトル
メーカー:セガ
混沌の地「ガイア=エンド」の覇者をめざすネットワーク専用ゲーム。仲間とともにダンジョンを探索するアクション、多人数で同盟を組んで世界を支配するシミュレーション、敵地に攻め込むカードバトルの3パートで構成され、それぞれ違った楽しみが得られる。わずか数名の同盟国で巨大な敵地に挑むか、それとも大派閥に加わり着実に力を蓄えるか。高度な駆け引き、熾烈なせめぎ合いが待っている。基本的に無料で遊べるが、ゲームを有利に運ぶための課金コンテンツも配信中。
「アクション、シミュレーション、カードバトルと、さまざまな要素が詰まったゲームです。正式にサービスを開始してから3、4ヵ月経過し、そろそろ次のシーズンに向けてメジャーバージョンアップの準備を進めています。現シーズンの結果は次シーズンにも蓄積されるので、次のスタートダッシュに備えて今から始めるのもいいかもしれません。ともかく基本無料なので、『PS Vita』を購入した方はまず一度遊んでみてください」(山田)
株式会社バンダイナムコゲームス
『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY』
プロデューサー
広野 啓
発売日:発売中
価格:5980円(パッケージ版)/5380円(DL版)
ジャンル:ガンダムバトル
メーカー:バンダイナムコゲームス
※ 8月30日以降は、DL版5980円で配信予定。
アニメ『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』を再現した、『PS Vita』初のガンダムゲーム。原作さながらのハイクオリティなモビルスーツを操り、アニメの名場面などシチュエーションを再現したミッションをプレイできる。また、協力プレイや対戦で奥深いバトルアクションを楽しめる。ミッションをこなして地球連合、Z.A.F.T、アークエンジェルの各勢力間を渡り歩き、名シーンを追体験しよう。ミッションでポイントを貯めて自分好みに機体をチューンナップする、カスタマイズ要素も充実。
「これまで『PSP』で「ガンダムバトル」シリーズを4作発表してきましたが、今回は『PS Vita』で遊べる新しいバトルシリーズの第一作です。これまで培ったシステムはそのままに、『PS Vita』の高解像度でモビルスーツを表現し、できることも増やしました。機体は約140体、ミッションも120以上。おそらく現状の『PS Vita』の中で、登場キャラクターがもっとも多いゲームだと思います。ぜひ僕らの努力の結晶を見てください(笑)」(広野)
――前回は、みなさんが手掛けた『PS Vita』ソフトにおけるネットワークの活用法について語っていただきました。みなさんはゲーム制作に携わってもう長いですが、ネットワークが普及したことでゲームのつくりかたも変わりましたか?
山田:全然違いますね。例えば「サカつく」でもひとりで遊ぶのとオンラインでみんなでプレイするのではまるで違います。どれぐらいの時間をかけてクリアしてもらうかという点ひとつとっても、オフラインの場合、ユーザーさんによってプレイスタイルが違いますからコントロールするのが非常に難しい。ユーザーさんががんばった成果を、ゲームにどれぐらい反映させるべきか。その考え方がオンライン/オフラインでまったく違うんですよね。企画の根本からまったく変わってくると思います。
広野:僕はネットワークゲームをつくったことはありませんが、山田さんに全面的に同意しますね。ネットワークゲームは、ゲーム本編の面白さよりもいかにサービスをうまく提供していくかという視点がいちばん重要になってくると思います。まだ、傍から見ているだけなので印象にすぎませんけど(笑)。
土屋:本当にそうなんですよね。コンシューマゲームはソフトのなかにどれだけ面白さを詰め込むかが重要。ユーザーさんも、この1本のなかにどれだけのサプライズがあるかを期待します。でもネットを使って継続するゲームの場合、「次に何が来るかな」と期待されます。その声にこたえていくのが重要なので、そこが今までのコンシューマゲームとは違う面白さであり、大変な部分でもあります。
山田:最初の時点でどこまで入れるかっていうのも重要なんですよね。コンシューマ畑出身の人って、最初の段階でできるだけ多く詰め込もうとします。でもネットワークでアップデートすることが前提なら「いちばん重要なところだけ最初にしっかりつくって、それ以外はあとからアップデートすればいい」と考えるようになります。開発者、特に企画を考える人の視点も変えなければならないと思います。ネットワークゲームの場合、どうやって最初に興味を引きつけるかが肝心なので、冒頭の部分をわかりやすくしなければなりませんし。
――『PS Vita』の場合、Wi-Fi通信だけでなく3Gネットワーク機能も搭載されています。その点も、ゲームづくりに影響を及ぼしていますか?
山田:ゲームにもよりますが、3Gネットワークが利用できることを前提にするとゲームデザインもまるで変わってきますよね。『サムライ&ドラゴンズ』なんて、まさにそう。いつでもつなげられるヤツが強いんです。「お金を使ったヤツが強い」というゲームとは違い、どれだけアクティブな時間をつくるかがゲームのカギを握るわけです。そういうゲームにするか、Wi-Fiでアクセスすることを前提にするかで、企画からまるっきり変わってきますね。3Gネットワークを使うなら、より生活の中に組み込まれるゲームでなければなりません。そのあたりのバランスも難しいんですよね。だって、難しくないですか? どれぐらいイオンちゃんを放っておけばいいのかって、すごく難しいと思うんですけど。
土屋:ユーザーさんは1日に何回ぐらい、どういうタイミングでアクセスするんだろうっていうのはすごく考えました。3G/Wi-Fiモデルを持っている人とWi-Fiオンリーの人って、その点全然違うじゃないですか。
山田:『サムドラ』のような競い合うゲームではないにしても、3Gネットワークを利用する人が有利ってことはあるんですか?
土屋:ありますよ。モニタの中のイオンは、24時間サイクルで生活しています。ですから、アクセス頻度が低いと、サプライズやイベントとの遭遇機会はどうしても減ってしまいます。でも3Gネットワークを利用して、外出先や移動中にパッとアクセスすると、イオンが着替え中だったりといった「思わぬサプライズ」に遭遇しやすくなるわけです。そういう意味で、3Gネットワークを活用している方のほうがこまめにアクセスできて、ちょっとお得にプレイできるんじゃないかなと思います。
山田:それは重要な要素ですね(笑)。
土屋:ゲームの設計上、アクセスした瞬間がいちばんイベントが発生しやすいんですよ。だから、こまめにプレイしたほうがいろいろなサプライズを体感できるんです。
広野:ひと口にネットワーク専用ゲームと言っても、『サムドラ』はつないでいる時間が重要、『シェルノサージュ』はつなぐタイミングを重視。『ガンダム』は週に1回アクセスすれば大丈夫かなと。
山田:そうやって違う使い方をできるのがいいんですよ。みんな同じじゃ面白くありませんし。
――やはりゲーム全体にとって、ネットワークは不可欠なものだと思いますか?
全員:確実にそうだと思います。
山田:それをどう使うかはゲームによって違うと思いますけどね。コミュニケーションなのか競争なのか、いろいろ考え方はあると思いますが、でも絶対に必要なものだと思います。動画サイトに自分のプレイ動画をアップしたり実況したり、そういうことが『PS Vita』上でできるようになれば、ゲームの拡散の仕方も変わってくるでしょうね。
土屋:ネットワークのおかげで、ユーザーさんとゲームの垣根も低くなりましたよね。昔だと「このゲームをプレイしている人、周りにいないな」と思って終わってしまっていたわけですが、今ならネットを見てたくさんのユーザーと交流できます。同じ楽しみを持っている人と交流できれば、今までにない発見もある。ネットワークとゲームが今後さらに近づけば、さらなる相乗効果も生まれるでしょう。
――ゲームの中に通信機能を取り入れるだけでなく、ユーザー間コミュニケーションにネットが欠かせないということですね。
土屋:そうです。今後『PS Vita』もシステムアップデートで進化していくと思いますが、ユーザーのコミュニケ?ションを活性化させるツールが出てくれるといいですよね。
広野:要は、人とのつながりなんですよね。人間が生活する上で、人とのつながりは必ず生じます。それがやっとゲームにも反映されはじめているのかなと感じています。もともとゲームって、ひとりでプレイするものでしたよね。せいぜい友達を呼んで、家でプレイするぐらい。それがやっとオープンになって、狭いコミュニティでやってきた人たちが外に気持ちをぶつけられるようになった(笑)。ネットワークを通じ、垣根なく人とつながることがようやく可能になったんだと思います。
――今後、こういうネットワーク要素を取り入れたいという希望は?
広野:FacebookやTwitterのように、突然流行するものってあるじゃないですか。ああいう感じで、ゲーム発のコミュニケーションツールができるといいなと思います。ソーシャルゲームがそれにあたるのかもしれませんけれど。
土屋:ライフスタイルを変えるぐらいのね。
広野:おしゃれな感じにしたいですよね。まだゲーム=オタクっぽいイメージを持っている人の考えを変えていきたい。
土屋:『PS Vita』というハードは、そういうアプローチも出来ると思いますね。
山田:かっこいい持ち方を研究しましょうよ。山ガールのバックパックに『PS Vita』がはまってる、とか(笑)。
広野:面白い(笑)。
土屋:もともとSCEさんは『PlayStation』という成功例がありますからね。ゲームを一部のゲームファンだけのものでなく、一般層にまで広めたじゃないですか。家電やウォークマンのような売りかたでした。
山田:当時のわが社が差をつけられた部分でもありますね!
土屋:『PS Vita』で同じ流れをつくれるといいですよね。
山田:まだまだ行けると信じています。3Gネットワークだって、もっとできることがあると思うんですよ。だって昔は、288kモデムで『ディアブロ』を遊んでたでしょう? 開発者には「昔を思い出せ!」と強く言いたいですね(笑)。「NTTドコモの3G回線なめんなよ!」と。もともと日本人は、そういった制限の中でものをつくるのが得意じゃないですか。
広野:本当にそうですよね。
土屋:ゲームのパラメータって、本当にデータ量少ないですからね。それで面白く遊ばせることだって、企画次第でいくらでもできますよね。
山田:もっともっと考えていきたいですね。
広野:『PS Vita』も生まれたばかりの赤ちゃんみたいなものですからね。ま、どう育てるかはユーザーさん次第ですけど(笑)。
――今後、『PS Vita』でどんなゲームを開発していきたいですか?
山田:『サムライ&ドラゴンズ』であの路線は終わりなのかというと、そうではありません。フリートゥプレイのネットゲームで、コンシューマのユーザーに喜んでもらえるもの、移植ではなく新しいものにトライしていきたいですね。
土屋:新しい遊び、新しいサプライズを常に与えつづけていきたいです。遊んでいる方が、「このゲームに触れている時間が幸せだ」と思える時間が長ければ長いほど、ゲーム制作者の喜びも大きくなります。ユーザーさんがゲームを通じて元気を出し、自分の仕事をがんばってくれてれば社会も明るくなるし回る。そうすれば、我々も少しは世の中に貢献できたことになるじゃないですか。毎日「次は何が配信されるんだろう」と楽しみにしてほしいですし、私たちもどんどん新しいことをやっていくべき。そのためにも、ネットワークはすごく役に立つインフラだと思います。
広野:おふたりも僕も、おそらく今、次の『PS Vita』タイトルをつくっていると思うんですよ。そこでいろいろ詰め込むんじゃないでしょうか(笑)。何をつくっているかはまだ言えませんが、いろいろ試していきたいですし、タイトルに合わせて『PS Vita』の機能をうまくチョイスしていきたいと思っています。次回作ではまだ取り入れられませんが、個人的には背面タッチを使いこなしてみたいんですよ。意外とみんな使っていないじゃないですか。
山田:使い方のスタンダードはまだ見えていませんね。
広野:そこでチャレンジャーのセガさんにがんばってほしいんですよ(笑)。いっそ前面スクリーンを見ずに、背面タッチだけで遊べちゃうとか(笑)。前面スクリーンは鏡に映して見るとかね。
山田:ん? 意外とイケそうかな(笑)?
広野:鏡に前面スクリーンを映して謎を解く、みたいな。
山田:それは次の「アンチャーテッド」にお任せします(笑)。
広野:イオンちゃんの背中のボタンを外すとかね。ブラのホックを外したり。
土屋:そういうアイデアは、社内でも毎日のように出ています(笑)。
山田:ブラジャーのホックの外し方を学べるゲームはいいですね。思春期の教育に大変良いと思います!
広野:いやいや、背面タッチではアレを習得できないでしょう! まあ、こういうバカ話から面白い企画が生まれることも多いんですよ。今後に期待してください(笑)。
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