『PlayStation®Vita』(PS Vita)の3Gネットワークをいかし、新たなゲームを提案するクリエイターたち。今回はガスト、セガ、バンダイナムコゲームスのディレクター&プロデューサー陣が、座談会を開催。『PS Vita』の可能性、ゲームにおけるネットワークのあり方について、三者三様の意見を語っていただいた。
入社当時はサウンドクリエイターとして「アトリエ」シリーズなどの音楽を担当。「アルトネリコ」シリーズではディレクターを務める。Webの統括も担当。
『ハンドレッドソード』(ドリームキャスト)、『パンツァードラグーンオルタ』(Xbox)、「J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!」シリーズ(PS2、PS3、PSP)、『龍が如く OF THE END』(PS3)など、数多くの作品を手掛ける。
『機動戦士ガンダム』を筆頭に、『超時空要塞マクロス』『新世紀エヴァンゲリオン』などロボットアニメを題材にしたキャラクターゲームを制作。その他『AKB1/48 アイドルと恋したら…』、RPG『時と永遠?トキトワ?』など幅広い作品に携わっている。
発売日:発売中
価格:5040円(パッケージ版)/4200円(DL版)
ジャンル:7次元コミュニケーション
メーカー:ガスト
『PS Vita』の向こう側で暮らす少女イオンと触れ合う、リアルタイム・ライフ・シミュレーション。イオンは24時間サイクルで生活しているので、時間によって食事、工作、睡眠など異なる行動を取っている。3Gネットワークを利用し、外出先や移動中にふと起動すれば、いつもと違うイオンの表情が見られるはずだ。また、イオンは過去の記憶を失っているため、“夢セカイ”で彼女の心を修復する必要がある。少しずつ記憶を取り戻し、ドラマティックなシナリオを進行させよう。
3G通信機能を使えば、ふと思い立った時にイオンの暮らしぶりを覗くことができる。また“夢セカイ”で妖精に廃墟(イオンの心)を修復を頼む際、時間のロスなく行動を指示できるのも3Gネットワークのメリットだ。
発売日:発売中
価格:3990円(豪華特典付きデラックスパッケージ版)/無料(DL版)
ジャンル:アクション&モンスターバトル
メーカー:セガ
混沌の地「ガイア=エンド」の覇者をめざすネットワーク専用ゲーム。仲間とともにダンジョンを探索するアクション、多人数で同盟を組んで世界を支配するシミュレーション、敵地に攻め込むカードバトルの3パートで構成され、それぞれ違った楽しみが得られる。わずか数名の同盟国で巨大な敵地に挑むか、それとも大派閥に加わり着実に力を蓄えるか。高度な駆け引き、熾烈なせめぎ合いが待っている。基本的に無料で遊べるが、ゲームを有利に運ぶための課金コンテンツも配信中。
戦力となる魔獣を育てるには、より多くの資源が必要。3Gネットワークを利用すれば、街の開拓や資源の生産も時間の無駄なくスムーズに行なえる。こまめにアクセスすれば近隣同盟の動向も把握しやすく、バトルパートでも有利に立ち回れるはずだ。
発売日:発売中
価格:5980円(パッケージ版)/5380円(DL版)
ジャンル:ガンダムバトル
メーカー:バンダイナムコゲームス
※ 8月30日以降は、DL版5980円で配信予定。
アニメ『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』を再現した、『PS Vita』初のガンダムゲーム。原作さながらのハイクオリティなモビルスーツを操り、アニメの名場面などシチュエーションを再現したミッションをプレイできる。また、協力プレイや対戦で奥深いバトルアクションを楽しめる。ミッションをこなして地球連合、Z.A.F.T、アークエンジェルの各勢力間を渡り歩き、名シーンを追体験しよう。ミッションでポイントを貯めて自分好みに機体をチューンナップする、カスタマイズ要素も充実。
毎週3つのミッションを無料配信。ネットワーク上のプレイヤーと協力し、指令達成をめざそう。その他のオンライン要素としては、人気投票も実施。好きな機体に投票し、1位になるとその機体の画像データがLive Area画像として配信される。
――今回は、『PS Vita』でのゲーム制作を経験されたお三方にお集まりいただきました。まずはじめに、『PS Vita』というハードを最初に知った時の印象を聞かせてください。
山田:今どきっぽいハードだなと思いました。3G通信機能を搭載しているので、いつでもどこでもネットにつながる。そこがいちばんインパクトが大きかったですね。
土屋:まだキャリアや料金が決まっていない頃でしたが、3G通信機能は可能性を感じました。
広野:僕の場合は、『PlayStation Portable』の上位機種ってイメージでしたね。『PlayStation 3』と『PSP』の中間というより、『PS3』で展開していたタイトルをそのまま『PS Vita』とマルチプラットフォームで出せるんじゃないかという期待がありました。新しいハードだし、挑戦してみたいという気持ちになりましたね。
――山田さんが手がけた『サムライ&ドラゴンズ』、土屋さんが手がけた『シェルノサージュ』は、まさに3Gネットワークありきのゲームですよね。企画に至った経緯を教えてください。
山田:もともと同じ部内にスマートフォン用の『キングダムコンクエスト』という無料ゲームがあったんです。商業的にも成功していましたし、ビジネス的なノウハウもありました。そこで『PS Vita』でも挑戦しようという話に。大きなチャレンジでしたが、ゲームやゲームビジネスの新しい可能性を切り拓くことができるかもしれないと思い、スタートしました。
広野:すごいですよね。最初に話を聞いた時、「さすがセガさん、チャレンジャーだな!」と思いました(笑)。どのメーカーさんも驚かれたと思いますよ。
山田:僕自身も驚きましたけどね(笑)。
広野:『キングダムコンクエスト』とは名前も変えて、新しく作ったわけですしね。
山田:コンシューマゲームのユーザーとソーシャルゲームのユーザーって、すごく乖離していますからね。どちらがいい/悪いではなく、ある意味、宗教論争みたいなもの。“ソーシャルゲーム”って言った時点で、コンシューマーゲームのユーザーはサーッと引いてしまいます。でも『サムライ&ドラゴンズ』は、“ソーシャルゲーム”とは言いにくい部分がすごく大きいんですよ。“オンラインゲーム”と言ったほうが正しいと思います。でも今時だと、フリートゥプレイ(基本無料ゲーム)だと“ソーシャルゲーム”と認識されてしまうんですよね。そこが難しいところでした。紆余曲折もありましたが、『サムライ&ドラゴンズ』というタイトルにし、アクションパートを強く打ち出して、そこを入り口に興味をもっていただこうと考えました。
広野:やっぱりセガさんは、切り込んできますよねー。
山田:いろんな意味で、昔のセガっぽいタイトルだと思います。キャラクターの造形も含めて。
広野:『PS Vita』でフリートゥプレイとなれば、「コンシューマゲームがタダで遊べる」って印象になるんですよね。それがすごくよかったんじゃないかな。
山田:コンシューマゲームのユーザーさんに遊んでいただくには、それなりのクオリティが必要じゃないですか。アクション部分にはこだわりましたし、「こういう職業のキャラの組合せじゃないと先に進めない」とかはやめて、ザクザク気持ち良く進めるものにしました。「これぐらいのものがフリーで遊べるならいいよね」って思っていただけるものにしないと成功しないのではないでしょうか。
土屋:やっぱり基本無料なのはすごいですよ。ユーザーの初期投資が0円というのは、非常に大きな冒険。実はウチもそれを考えたんですけど、社内的にも反対があって断念しましたから。
山田:新規のタイトルなので、パッケージソフトとして発売するにしてもしっかりとしたプロモーションが必要です。それもあって企画が通りやすかったのかもしれませんね。
広野:逆にうちの場合はキャラクターをお借りしているので、無料ゲームはなかなか考えにくいんですよね。
土屋:「やられたな」って感じですし、実にうらやましいです。そもそも『シェルノサージュ』は、この1タイトルでは終わらない継続コンテンツです。今後もいろいろなハードでシリーズが続いていくことを前提に、ユーザーさんとのコミュニティをつくろうと思っています。ユーザーさん同士が活発に意見を交わしあい、この世界を盛り上げてほしいという想いが強いんです。だから、できれば最初は基本無料で敷居を低くして、継続コンテンツとしてやっていきたかったんですよね。
山田:『シェルノサージュ』はキャラクターがいいですよね。「かわいいは正義」ですよ。「イオンちゃんをトントンするゲーム」って、コンセプトもわかりやすいじゃないですか(笑)。キャラが魅力的だとダウンロードコンテンツも買いたくなるし、フリートゥプレイに近い形態になるんじゃないでしょうか。例えば『アイドルマスター』もそうですよね。僕も『ヴァンパイアガール』(注『きゅんっ! ヴァンパイアガール』)って曲、買っちゃいました(笑)。それだけの魅力あるコンテンツをつくれるのはすごいと思います。
広野:キャラクターに対する愛情のつくりかたは確かにすごいですよね。
土屋:ユーザーさんが本当に好きなものって、無条件で集めたくなりますよね。そういうものを作り、ユーザーさんに配信するのが私たちの使命だと思っています。例えば漫画も1巻だけ買って、面白いと思えば続けて読んで、合わなかったらそこでやめたりしますよね。ゲームでもそういうスタイルがあっていいと思うんです。ソフトの何分の一かを無料または低価格で提供して、あとはユーザーさんに自分の判断で継続するかを選択していただく、という方法。
――『シェルノサージュ』はそうしたスタイルですよね。山田さんとは違う、ネットワーク時代のビジネスモデルだと思います。
土屋:キャラクターを強化するためのアイテム課金ではなく、テレビシリーズのようなノリで、シナリオを低価格で配信していきます。「面白かったら次も買ってね」という感じ。ユーザーさんは欲しいところだけ買えますし、「今月はお金がないから来月まで待とう」ということもできます。このスタイルをずっと続けていれば、いつかは買ってくれるし、無理せずについてきてくれるんじゃないかと。とにかく目的は、このシリーズそのものを末永く維持すること。火を絶やさないことをいちばん念頭に置いています。
広野:その入り口となる1作目が、すごくよくできていますよね。ユーザーさんも盛り上がってるじゃないですか。
土屋:今回は対象キャラクターが1人ですから、そういう意味でもかなり練り込みました。ユーザーさんにも思い入れを持ってほしいので、意見をいただいたりユーザー参加型のコミュニティをつくったりして、ユーザーさんと開発サイドの距離を縮めようとがんばっています。単にソフトを買って遊ぶだけでなく、「自分たちがつくっているんだ」と感じていただくことで愛着度がもうワンランクアップすると思うんです。そしてこの世界をずっと楽しんでいただく。そういうプロジェクトができたらいいなと思っています。
――広野さんの場合は、ネットワークの使い方もまた違いますよね。例えば今回の『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY』では、毎週に3つのミッションを無料配信するというスタイルを取っています。
広野:僕の場合は、3Gネットワークを使って新しいものをつくるというより、ガンダムが好きな方に向けて通信を使って遊びの幅を広げたいという考え方なんですよね。だからみなさんとはちょっと違う。下手に課金モデルにすると「不完全なものを出した」と言われてしまいますから(笑)。それよりは購入したソフトを長く遊んでいただくために、無料でミッションを配信したり、人気投票を行なったりして継続的に遊べる形にしているわけです。3Gネットワークでずっとつながってないといけないというのではなく、気になった時にちょっとつなぐだけで遊べるものです。
山田:「ガンダム」も正義です(笑)。
広野:しかも今回『PS Vita』初の「ガンダム」ですから、新しいハードを買って、新しいことをさせて……となると、どんどん敷居が上がってしまいます。ウチの場合、「ガンダムのゲームだから買う」というユーザーさんが多いですし、今回は比較的新しい「ガンダムSEED」を題材にしています。ゲームに慣れていない方や年齢の若い方、女性ファンもターゲットになるので、「『PS Vita』で新しいことを」というより敷居を下げようと考えました。
山田:これが一年戦争を題材にしていると、話は変わってきそうですよね。
広野:全然変わってくるでしょうね(笑)。今回は題材が「SEED」ですし、僕らにとっても『PS Vita』でつくる最初のソフトでした。なので、このタイトルが今後の試金石にもなっています。指令ミッションを配信することでユーザーさんに長く遊んでいただけているのは事実なので、うまくいろいろなものと組み合わせていけば、長く遊んでいただきながら新しいユーザーさんをも取り込むものができるんじゃないかなと思います。
――『PS Vita』で1本ゲームをつくってみて、ハードに対して改めてどんな印象を抱きましたか? 「まだこんなことができる」という手ごたえは感じていますか?
山田:お世辞抜きで、非常に優れたハードだと思います。ユーザーの目線で見ても、ネットワークゲームをプレイするのに適したハードだと思うんです。フリートゥプレイのネットワークゲームを運営する立場としても、なにか更新情報があったら「Live Area」で表示されるのがすごくいい。
土屋:「Live Area」はいいですね。
山田:他にも、まだ「near」や「グループメッセージング」など活用しきれていない機能もあります。いろいろと発信ができる環境が整っていますよね。
――ネットワークゲームをプレイするのに適したハードとは、どんな意味合いでしょう。
山田:気が向いた時に遊べるのが大きいですよね。僕の年代になると、テレビを占領するわけにもいかないじゃないですか(笑)。寝る前にちょっとプレイしたり、自室で寝転がって遊んだりするにもぴったりです。それにテレビの電源をつけて、ゲーム機の電源をつけて……という手間もいりません。僕が『PSP』で「サカつく」をつくった時にも感じたんですが、携帯ゲーム機だとゲームがライフスタイルの中に組み込まれるんですよね。据え置き機でRPGを夢中でプレイしていても、2日間ブランクが空くともうプレイしなくなりません?
広野:ありますあります(笑)。
山田:携帯ゲーム機ならそういうこともないですし、その結果ゲーム需要も伸びていくと思います。『PS Vita』はそんな手軽さをもちながら、スペックも十分。そういう意味では素晴らしいと思います。
土屋:ライフスタイルに組み込まれるっていうのは、いちばんのメリットですよね。『シェルノサージュ』は、まさにそういうタイプのゲーム。モニターの中のイオンは24時間サイクルで生活しているので、いつも持ち歩いてライフスタイルの中で気ままに立ち上げて、気ままに遊んでねというのがコンセプトです。『PS Vita』はそれができるのがいいんですよね。それでいてスペックも高いし、いろいろな機能が詰まっている。「え、なにこれ?」っていうおもちゃがいっぱい入っているハードなんですよね。「これを使ってどうやって遊ばせるんだろう」って思うチャレンジャブルな機能がいっぱいあって、みんなまだ遊び方を模索している時期だと思うんですよ。『シェルノサージュ』でも、まだ『PS Vita』特有の機能はあまり使えていませんし。ARやGPSも使いたかったのですが、今回はやむなく諦めました。
広野:今お話をうかがいながら、『機動戦士 ガンダムSEED BATTLE DESTINY』で自分が最初に書いた企画書を思い出しました(笑)。その頃の企画書って、すっごいたくさんの機能を入れていたんですよ(笑)。ARもあったし、GPSも入れてた! いつのまにか本編の制作に力を入れていくうちに削られていって。
山田:あるある(笑)。
土屋:それぐらい、今までにない機能が満載なのが『PS Vita』のすごいところなんですよ。
広野:GPSを使って陣取り合戦をやりたかったんですよねー。連合とZ.A.F.T、2軍に分かれて戦うんですけど、GPSを使って「俺の県は連合、お前の県はZ.A.F.T」みたいなことがやりたかったんですよ。泣く泣く削りましたけど(笑)。あとはARを使って、ガンプラのパッケージを読み込むとうまいこと遊べますよ、とか。
土屋:ガンプラの箱から自分のユニットが作れると面白いですね。
広野:いろいろと都合がありまして(笑)。でも『PS Vita』自体、「これは来るな」と思いましたね。今後スタンダードになる機体だと思いました。……あ、僕はロボットものをつくっているせいで、ついゲームハードを「機体」って呼んじゃうんですよ(笑)。ロボットを原作さながらにきれいに表示するという僕らの命題も、『PS Vita』ならクリアできました。一本目なので手探り状態で大変ではありましたけどね。あとはユーザーさんが『PS Vita』に触れる機会がまだ少ないので、いっそSCEさんには『PS Vita』を配布してもらいたい!
一同:(爆笑)
広野:もしくは割賦販売してもらいたいですよね、携帯電話やスマホみたいに(笑)。
土屋:確かに、そうやってユーザーさんが気軽に『PS Vita』を手に取れる環境になってほしいと思います。
広野:みんな興味は持っているし、欲しいと思ってるわけですからね。
山田:うちの嫁も欲しがってましたからね(笑)。
土屋:コンシューマ機はそこがネックなんですよね。価格が高いので普及に時間がかかりますが、一度手にすれば非常に魅力のあるハード。ゲーム以外でもツールとして使えますしね。ナビのソフトが出ればGPSとして使えますし、ゲーム以外の可能性も大きく広がっています。
広野:スマートフォンとの戦いになってくると、まだ厳しい部分はありません?
土屋:スマートフォンは電話に特化したガジェットなので、スマートフォンには無い部分で常に携帯したい何かがあれば、2台持ちはすると思いますよ。
――ゲームをつくるうえでも、スマートフォンをライバルと考える部分はありますか?
土屋:私としてはスマートフォンとは共存共栄関係が出来たらいいなと思っています。今クラウドって当たり前になってきているじゃないですか。あるハードで進めたゲーム本編のデータをクラウドでセーブして、スマートフォンではそのパラメータを使ってキャラの育成をする……という遊び方もあると思うんですよ。例えばRPGなら、PS3や 『PS Vita』で本編を進めて、移動中などではスマホで経験値を稼いだりアイテムをつくったりする。持っている端末ごとに、同じ世界観で違う遊びを提供できる。常にその世界と触れていられますし、面白いと思います。そういったことも実現の可能性が上がっているんじゃないでしょうか。
ここまで三社三様の3Gネットワーク活用法、『PS Vita』というハードへの率直な感想を語っていただいたが、まだまだ熱いトークは止まらない!
8月21日更新予定の後編では、ゲームとネットワークの今後、『PS Vita』の未来についてたっぷり語っていただきます。
なお、座談会を記念して、『シェルノサージュ』の壁紙も無料ダウンロードできる予定なのでお楽しみに!
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