Reconsideration of the History |
76.忘れ去られた皇軍兵士〜コリア人・台湾人軍人軍属問題(2000.8.22) |
あるコリア人の老人が死ぬ前に再会したいと語った人、それは戦時中、同じ釜の飯を食べ、苦楽を共にした旧日本軍の日本人戦友達だと言います。又、台北市内の路地裏の食堂に、台湾人の老人達が三々五々集まっては、互いに「日本語」で自分達の思い出話を熱く語り合う共言います。かつて、皇軍兵士(日本軍人)として大東亜戦争を共に戦った彼ら ── コリア人・台湾人軍人達は、戦後、『サンフランシスコ平和条約』によって、日本が朝鮮半島・台湾の領有権を放棄した瞬間、「日本国籍」を喪失しました。あれ(終戦)から半世紀。「皇軍兵士」として日本人と共に戦ったコリア人・台湾人軍人達の「終戦」はいまだ「決着」を見ていません。と言う訳で、今回は、彼らコリア人・台湾人軍人達にとって未解決なままの「終戦」問題にスポットを当ててみたいと思います。
『戦傷病者戦没者遺族等援護法』(以下、『援護法』と略)。これは、昭和27(1952)年4月30日に施行された法律で、旧軍人軍属 ── かつて皇軍兵士だった人や軍属として徴用されていた人で、戦闘中の怪我(けが)や病気の後遺症に苦しんでいる人や、戦死した皇軍兵士の遺族等に対して、障害年金・遺族年金を給付し、生活を支援する目的で制定されたものです。又、昭和28(1953)年8月1日施行の『恩給法改正法』(改正恩給法)によって、旧軍人軍属やこれらの遺族に対する恩給(軍人恩給)の支給も復活しました。これら『援護法』・『改正恩給法』等によって、「お国(日本)のため」に、「天皇の軍隊」 ── 皇軍兵士として戦地に赴(おもむ)いた人達の「戦後補償」が、国家の義務として正式になされた訳です。
さて、旧軍人軍属・遺族等に対する障害年金・遺族年金・軍人恩給等の「戦後補償」ですが、これらは、あくまでも「日本国籍」を有する者に対してのみなされている措置で、終戦に伴い「日本国籍」を失ったコリア人・台湾人軍人軍属はその対象となっていないのです。ちなみに戦争中、軍人軍属だったコリア人・台湾人の数は、コリア人が38万人、台湾人が21万人(共に推定)と言われています。(下表)
大東亜戦争におけるコリア・台湾軍人軍属の数
コリア人 |
軍人 |
23万人 |
台湾人 |
軍人 |
8万人 |
軍属・軍夫 |
15万人 |
軍属・軍夫 |
13万人 |
計 |
38万人 |
計 |
21万人 |
彼らコリア人・台湾人軍人軍属は、自らの意志で志願した者もいましたが、内地(日本本土)同様に、徴兵・徴用された者もいました。そして、彼らは日本人の軍人軍属と等しく戦争を共に戦った訳で、冒頭に書いた旧軍人のコリア老人の話は、それを如実に物語っているのです。そんな彼ら ── コリア人・台湾人軍人軍属は終戦によって、自らの意志とは何ら関係無い形で「日本国籍」を失い、日本人の軍人軍属やその遺族が当然の様に受けている「戦後補償」を受けられずにいる訳です。
以前私は、英霊 ── 「お国のため」に戦地へと赴き、そして戦没した将兵を祀(まつ)る靖国神社への首相以下閣僚の公式参拝は、国民の代表として国家を預かる者としての「責務」だと書きました。(『35.公人か? 私人か? 靖国神社閣僚公式参拝考』参照) そうあってこそ、はじめて「戦場の露」として散っていった英霊の鎮魂が出来るのだと。しかし、かたや旧「日本国民」で、皇軍兵士として日本人将兵と苦楽を共にしたコリア人・台湾人軍人軍属に対する「戦後補償」は、いまだになされていないのです。私は、「お国のため」・「大東亜共栄圏実現」を胸に、日本人将兵と共に戦ったコリア人・台湾人軍人軍属に対する「戦後補償」も、日本人軍人軍属に対するのと同様、日本政府が真剣に取り組むべき「責務」だと思っています。そして、それなくして、コリア人・台湾人軍人軍属達にとっての「あの夏」 ── 昭和20(1945)年8月15日(終戦の日)に、決して終わりが来ないのではないでしょうか? (了)
読者の声 (メールマガジン ≪ WEB 熱線 第1104号 ≫ 2008/11/28_Fri ― アジアの街角から― のクリックアンケートより)
- 日本人として当然の責務である。チャイナにばかり金を使い、軍拡の手助けをして何になる!(satou kiitiさん)
- このようなテーマについて考えるのは初めてのことですので、十分な知見がないまま出してしまう意見は、今後、見直さなくてはならなくなるのかもしれませんが、ちょっとだけ発言を!
おっしゃられるお気持ちはよく分かります。そこで、是非お教えください!
- これらの国に対し日本は、国家賠償を行っているんでしょうか?
- また、その内容は十分なものだったのでしょうか?
- 過去の(植民地、この場合併合国ですが)ヨーロッパやジアの敗戦国の国家賠償事例はどうなっていたのでしょうか?(それらと比べ著しくかつ不当に低いものでしょうか?)
私は、戦後賠償については国家間の外交交渉において行われた事だと思いますし、相手国の要求に基ずいて決められたものだと思いますが、どうなんでしょうか?
また、台湾や韓国は、交渉時に考えられる限りの要求をしてきたのではなかったのですか? だとすれば、その時点でこれらの個別補償についても当然台湾や韓国から補償要求があったのではありませんか?ーーーその後、賠償金が支払われた後で、これらの国が自国民の為に賠償金をどのように使ったのかは?です。
私は、毎日、韓国の新聞(日本語ネット版)を見ていますが、どうやら韓国の国民の多くは、日本が韓国に対し戦後賠償を行ったという事を知らないのではないかと思っています。もちろん、日本人はもっと知らないのでしょうが。
これは、それぞれの国民にとって極めて不幸な事ではないでしょうか?
- 国家間の決着がついていたとすれば、韓国や台湾の元軍人、軍属の人たちはどこへ戦後賠償を要求すればいいんでしょう?
私には、忘れ去られた皇軍兵士〜コリア人台湾人軍人軍属の問題は、台湾や韓国の国内問題ではないかと思えます。(hienn さん)
- なぜ、あなたは、コリア人台湾人軍人軍属への戦後補償問題を提起されたのでしょう?(竹下さんもご承知のように、すでに韓国、台湾への戦後賠償は解決済です)
賠償問題として言論展開されるのであれば、
- 日本は韓国、台湾に対しても戦後賠償を終えているいう事。
- 韓国の国内問題として、韓国政府は自国民に対し日本の韓国への国家賠償を隠しつづけてきた。(つまり、軍人軍属への補償を他へ流用した)
以上の事実も併記するべきです。
このままでは、従軍慰安婦賠償問題と何ら変わらないのではないでしょうか?(hienn さん)
- 素晴らしい精神を持った、立派な軍人も多数いたでしょう。反面、捕虜虐待の先頭に立ち、日本軍の悪名を際立たせた朝鮮人軍属も多数いました。
しかし、条約締結により韓国も台湾も日本政府による充分な政府間補償を受けた訳であり、やはり夫々の国が面倒をみるべきでしょう。ーーー韓国政府は、国民に賠償金受領の一切を隠し続けてきたことが最近明らかになって、騒ぎになっています。
先日、東京大空襲で被害にあった遺族が、日本国への補償を求め裁判を起した際に「戦争によって命を落としたのは軍人だけではない」との論陣を張っていましたが、それを認めだすと、日本はその張本人である、大都市無差別爆撃や原爆投下などをアメリカに賠償請求することとなりましょう。
確かに戦争によって被害を蒙った人は、民間の罪のない婦女子を含めて際限ありません。敗戦国だから何を主張する権利もないと考えている人も多いと思いますが、
際限のない不毛な賠償請求が限りなく続く「負の連鎖」は、発展的な行為とは言えないのではないでしょうか。(lonsome carboyさん)
- 私がコリア人・台湾人軍人軍属に対する補償を提起した事について、従軍慰安婦に対する補償問題と何ら変わらない、とのご意見がありますが、私は似て非なるレベルの問題だと考えています。
軍人軍属補償問題は、日本国家・軍による徴兵(この場合志願も含む)であり、国家・軍に管理責任が起因します。朝鮮半島出身であろうが、台湾出身であろうが、内地出身者とともに「日本兵」として戦った皇軍兵士であった以上、その地位並びに補償は、等しく享受する権利を有しているものと考えます。
確かに、日韓基本条約による戦後補償や、蒋介石政権の賠償放棄等々により、現在の日本が補償をすべき道義はないとは思います。また、兵士の中に皇軍の名誉を貶めた者がいた事も確かです。
しかし、それでは、貶めた者とそうでない者とをどのように線引き=区別するのか? 一人一人の当時の素行を調査するのか?ーーーそのような事はできないと思います。
賠償問題に関する国家間の道義的責任については、既に解決してはいます。
しかし、敗れたりとはいえ、当時、世界に冠たる皇軍兵士として戦った(現)非日本国籍軍人軍属を切り捨てる事は、皇軍、ひいては日本の真義を貶める事になりはしないか?
例えば、(現)韓国籍元軍人軍属に対する補償をするに際しても、日韓国交正常化の際、日本は公式・非公式合わせてどれ程の金銭的補償を韓国政府に対して行ったかを、改めて公式の場で表明し、それでも韓国政府が自国民の旧日本軍人軍属に対する補償をなおざりにした故、日本が韓国に代わって補償する、
と言えばどうなりますか?
日本は真義を尽くして旧日本軍人軍属に補償する=金は出て行きます。しかし韓国は、金は出さずに済みますが面目は丸潰れとなり、国家的道義は地に堕ちるでしょう。===日本は「損して得を取る」事になります。
次に、従軍慰安婦問題と同じではないかとのご指摘については、
私は全く異なる問題だと考えます。前述のように(現)非日本国籍軍人軍属は、今でこそ日本国民ではありませんが、当時は「日本人」であり、国家・軍の徴兵により皇軍兵士として戦ったのですから、国家による補償を受ける権利を有しています。
しかし、所謂「従軍慰安婦」は、そもそも民間による売春であり、軍は売春斡旋業者に、兵士への性病罹患の恐れがないような方策を求めていたに過ぎません。
国家・軍が、慰安婦として民間女性を強制連行したわけではないのですし、あくまでも民間業者の中での問題なのですから、それを国家賠償しろというほうが筋違いというものです。
なお、私は、在外被爆者はおろか国内被爆者に対する日本国家による補償救済ですら筋違いだと考えています。ーーー原爆を投下し、多くの死傷者・被爆者を出したのはアメリカです。
ですから、日本が国家として「一時的な救済代行」を講じる事は認めますが、救済代行費用については、米国に対して本来求めるのが筋であると考えています。
長々と書きましたが、改めて論旨を纏めれば、
- コリア人台湾人軍人軍属に対する補償は日本の真義に基づいて行うべし。
- その際、補償対象者の属する国家に対して既に為された賠償を改めて発表すべし。
- 従軍慰安婦からの賠償請求は、不当なものであるので門前払いにすべし。
- 日本が支出している、原爆被爆者に対する補償救済費用は、米国に請求すべし。
―――ということになります。(竹下義朗)