ウォン安に日本の電機・自動車産業は苦しんでいるが、一方で日韓貿易自体は日本の大幅な黒字だ
日本と韓国の関係が戦後最悪の状況となっている。仕掛けたのは韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領による竹島(韓国名・独島)上陸。その後も、歴史問題や天皇陛下の訪韓に関し李大統領が放言に近い発言を連発したことで、日本政府も「主権に関わる重大な問題と認識で毅然とした対応措置を取る」とし、閣僚が日韓通貨スワップ協定の見直しにも言及するなど、加速度的に緊張が増してきた。このままだと日韓経済に悪影響を与えるのは必至だが、その両国経済がどういう状況なのか再度見直してみたい。
日本にとって韓国は第3位、韓国にとって日本は第2位の貿易相手国。日本側統計では11年の2国間貿易総額は対前年比6.0%増の約8.44兆円となっている。一方、日韓貿易に限れば収支面は日本側の黒字が続いており、韓国側の対日貿易赤字は10年に過去最高の約2.96兆円、11年は約2.10兆円だった。韓国の11年総貿易収支が約2.56兆円の黒字ということを考えればいかに日本の対韓黒字が大きいか分かる。
ここまで一方的に日本の黒字となっているのは韓国の経済・政策的な面が大きい。為替相場ではリーマン・ショック以降、ドル不足の影響を受けウォン安が急激に進行し対円ベースでは07年7月の最高値からほぼ半分に減価。11年8月にも米国債格下げや欧州債務問題の影響から再度ウォン安傾向となった。その他、韓国財務省はウォン売りの覆面介入を恒常的に行いウォン安に誘導していると言われる。介入が事実かは不明だが、いずれにせよ輸出中心の韓国企業にとって日本などとの競争上ウォン安が有利になったのは間違いなく、サムスン電子<005930>や現代自動車<005380>はこの恩恵を最大限に受けた。
しかし、韓国は半導体、平面ディスプレイなど主力輸出品を生産するための中間財(部品,素材)と資本財(製造設備)を日本に依存しており、付加価値の高い基幹部品・素材の大半を日本に頼っているため対日貿易の赤字はウォン安に比して大きくなる。現実問題として二国間貿易から見ると、これほどの「お得意様」はそう多くはない。韓国政府は日本側の恒常的な黒字を問題視しているものの、完全に自業自得だろう。ちなみに日本の対韓投資は近年毎年10億-20億ドル規模。大口需要者である韓国企業に対する供給のため、日本の部品・素材産業が韓国に進出している。
日本では今回の竹島問題、大統領発言で韓国に制裁として緊急時に外貨を相互に融通し合う日韓通貨スワップ協定を破棄するべきだとの声は大きい。韓国側から日本は下請けに過ぎないと揶揄する声は出るが、現実は毎年2兆-3兆円のお金を日本に運んでくれている国だ。韓国側も一部政府高官が「スワップ協定がなくても困らない」と発言したと報じられたが、確かに破棄したところですぐに影響が出るわけではない。だが、破棄した後、何かで再び急速なウォン安が進行し、韓国経済が危機に陥ったとき、それが日本にプラスなのかマイナスなのか。この点は感情論ではなく、現状の日本産業にどう影響を与えているかを含め冷徹な判断を行なうべきだろう。
なお、韓国の11年経済成長率は3.6%。輸出はウォン安を背景に好調だったが、民間消費と設備投資、建設投資の伸び悩みが響いた。韓国政府は3.7%としていた12年経済成長率を6月に3.3%に下方修正している。