武市 宣雄
武市クリニック院長
広島大学非常勤講師(原爆放射線医科学研究所・放射線システム医学研究部門)
広島の被爆60周年とセミパラチンスク、チェルノブイリでの被曝者医療支援
原爆被爆60周年を迎える今も、私は相変わらず被爆者甲状腺癌手術を続けております。この10年間でも甲状腺で63例の医療特別手当(原爆認定)を申請し、40例の認定を頂く事ができました。これら被爆者の甲状腺の診察と手術をずっと広島で続けてきたノウハウを、海外での被曝者診療に役立てる事が出来たらといつも思っています。実はこの数十年、血中の甲状腺ホルモンや自己抗体、超音波(エコー)診断装置、細胞の穿刺吸引とその細胞診、CTやMRI等、飛躍的な進歩を遂げ、これらを有効に使用する事で、正確な甲状腺診断、安全・確実で容易な無血甲状腺手術が可能になってきました。
一方、カザフスタンのセミパラチンスク核実験場では昭和24(1949)年からの40年間に多くの核実験が行われ、そのフォールアウト被曝を周辺住民が受けたと言われています。この人達に甲状腺癌を含む甲状腺異常がないか、その早期発見の為の甲状腺検診に我々は平成11(1999)年から取り組んでいます。私のクリニックの小型版である“広島型甲状腺ミニチュアクリニック”を現地に持って行き、検診を行ってきましたが、これは広島大学 星正治教授の強力な指導力があっての事でした。それと共に一緒にボランティア活動を行う広島からの医師仲間、検査技師、看護師、医療通訳、広島セミパラチンスクプロジェクトや多山報恩会の皆様、高価なエコー購入に協力頂いたカタログハウス、そしてHICAREの支援があったからですが、広島からこのような官民一体となっての国際協力が、甲状腺の分野で行われてきた事に感謝しています。この結果セミパラチンスクでは、被曝影響と推察される甲状腺組織の線維化が広島より強い事、慢性甲状腺炎(橋本病)のない(TgAb陰性)人の機能低下症は高汚染の村人に多い事、橋本病は被曝との直接関係はない事、非腫瘤部の甲状腺細胞診で小核等の異常所見が散見される事、尿中ヨード(ヨードの摂取)量は広島より低い事、等が分ってきました。血中リンパ球の染色体異常も同時に調べており、将来は被曝線量推定例での甲状腺分析が出来れば、と思います。
同様の支援を、原発事故を起こしたチェルノブイリでも平成3(1991)年から続けていますが、ここでもジュノーの会やチェルノブイリ支援運動九州のボランティアの方々と共に、カタログハウス、郵政公社の国際ボランティア貯金、HICAREの官民協力で行ってきました。チェルノブイリでは甲状腺癌が事故後4年という短期間で小児に多発する事が分り、その原因を少しずつ解明してきた積りです。しかし、ベラルーシでは対照となる非汚染地域(ビチェブスク州)の検診をし残していました。20周年を迎える前の大事な昨年、やっとHICAREの助けも含めて実施する事ができまして、心から感謝致しております。
今年は広島の被爆60周年、来年はチェルノブイリ20周年、4年後にはセミパラチンスクでの初回核実験から60周年、を迎えます。その節目に、それぞれの国で行ってきた被曝者甲状腺医療支援の結果をまとめる事が出来れば、これまで協力して頂いたすべての方々への恩返しになるのではないかと思っております。
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