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原子力発電のコスト論争(各発電方式のコスト比較のまとめ) 09.25.2011, revised 10.10.2011
Arguments in Japan whether Nuclear cost is cheaper than Fired or Solar Photovoltaic, or not

総合資源エネルギー調査会(2011)、エネルギー白書(2010)、総合資源エネルギー調査会(2004)

日本エネルギー経済研究所(2011)、地球環境産業技術研究所(RITE)(2011)、大島堅一氏(2010)、孫正義氏

原子力は原発事故の賠償を入れても火力と同等か安い、太陽光よりはるかに安い

ソフトバンク孫社長の「すでに太陽光は原子力より安い」は間違い

福島原発事故を受けて原発は本当に安いのかの疑問が投げかけられています。各発電方式の発電単価については、2004年の総合資源エネルギー調査会の数字が用いられてきました。2011年に入ってその数値が見直されました。ここでは、総合資源エネルギー調査会(2011)/エネルギー白書(2010)/総合資源エネルギー調査会(2004)による発電単価をまとめてみました。また、立命館大学教授の大島堅一さんから、原子力発電の発電単価は、研究開発費や立地対策費を入れる火力発電より高いとの試算が出ています。これに対して地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾さんらのグループと日本エネルギー経済研究所から、原子力は火力と同等か安いとの試算が出ています。これらの点をまとめてみました。

下の表は、総合資源エネルギー調査会(2011.3)、エネルギー白書(2010.6)、総合資源エネルギー調査会(2004.1)による各発電方式の発電単価をまとめたものです。設備利用率と建設コスト目安の値は、日本学術会議東日本大震災対策委員会エネルギー選択肢分科会報告「エネルギー政策の選択肢に係る調査報告書」(2011.9.22)から引用しました。なお、建設コストは減価償却されるので発電単価に含まれています。

Table 1. 総合資源エネルギー調査会(2011)/エネルギー白書(2010)/総合資源エネルギー調査会(2004)による発電単価
Cost of various generating systems in Japan estimated by Government (Yen/kWh)
総合資源エネルギー調査会
(2011.3)
エネルギー白書
(2010.6)
総合資源エネルギー調査会
(2004.1)
設備利用率
(%

Availability
建設コスト目安
円(Yen)/kW

Rough Investment Cost
太陽光
Solar Photovoltaic
37-46 49 49 12-15 40万円/kW
\400,000/kW
120万円 (Typical 3kW)
バイオマス
Biomass
12-41
小水力
Hydro(small)
10-36 65 110万円/kW
\1,100,000/kW
6,700万円 (Typical 61kW)
地熱
Geothermal
11-27 8-22 11.9 70-90 5万円/kW
\50,000/kW
50億円 (Typical 100,000kW)
風力(大規模)
Wind
11-26 10-14 6 24-31 30万円/kW
\300,000/kW
3億円 (Typical 1,000kW)
水力(小規模を除く)
Hydro (middle&large)
8-13 8-13 11.9 20-25 67万円/kW
\670,000/kW
100億円 (Typical 15,000kW)
石油火力
Heavy Oil
14-17 10.7 30-80
電力需要の
変動に対応
30万円/kW
\300,000/kW
1,500億円 (Typical 500,000kW)
LNG火力
Liquefied Natural Gas
6-7 7-8 6.2
石炭火力
Coal
5-7 5.7
原子力
Nuclear
5-6 5-6 5.3 55-80 30万円/kW
\300,000/kW
3,000億円 (Typical 1000,000kW)
(単位 円/kWh) 送電端
出典 
総合資源エネルギー調査会の発電コスト試算はエネルギー・環境会議の次の資料による
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20110729/siryo2_1.pdf
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20110729/siryo2_2.pdf
設備利用率と建設コストの目安は日本学術会議東日本大震災対策委員会エネルギー選択肢分科会
「エネルギー政策の選択肢に係る調査報告書」(2011.9.22)による

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/shinsai/pdf/110922h.pdf

上の表の出典のエネルギー・環境会議(内閣府)の資料の主旨は、現在公表されている総合資源エネルギー調査会(経済産業省)の発電コスト試算はおかしいのではないか? とくに原子力はおかしいのではないか? 客観的なデータを集約し、第三者的な場において、比較した電源コストを明らかにすべきではないかということのようです(政府が自分の出した資料はおかしい、だから再検討すると書いています。それと、経済産業省と環境省の再生可能エネルギーの導入予測がまったく違っています。はっはー、それで本来出されているはずのエネルギー白書2011がまだ一般には公表されてないのですね。しかし、日本の政府はいったいどうなっているのでしょう。・・・やっと公表されました。このホームページの「World Energy Outlook 2011と エネルギー白書2011」をご覧下さい)。上記のエネルギー・環境会議資料にある発電コスト試算のグラフをFigure 1.として引用しました。

発電コスト比較のグラフ(総合資源エネルギー調査会2011による)
Figure 1. 総合資源エネルギー調査会による発電コスト試算比較のグラフ(Table 1.の出典と同じ)
Cost of various generating systems in Japan estimated by the governmental energy committee in March 2011 (Yen/kWh)

Figure 1.のベース電源、ミドル電源、ピーク電源の区分の主旨は判らなくもないですが、再生可能エネルギーと従来型のエネルギーとの比較を見てみたいので並べ替えたのが下のFigure 2.です。棒の高さは中央値を用いています。

発電コスト比較のグラフ、再生可能エネルギーと火力・原子力の比較
Figure 2. 総合資源エネルギー調査会による発電コスト試算比較のグラフ(並べ替えたもの)
Cost of various generating systems estimated by the governmental energy committee in March 2011 (Yen/kWh)
(rearranged Figure 1.)、棒グラフの高さは中央値(column height: center value)

再生可能エネルギー(自然エネルギー)は、水力(小規模除く)以外は今のところ高価な電源であること、石油火力がコスト高になっていることが判ります。石油火力がコスト高になっているのは原油高騰によるものです。このように並べ替えてみると、総合資源エネルギー調査会が試算した発電コストはおかしくないと言うよりむしろ妥当に見えます。

原発のコストが本当に安いのかという議論は、エネルギー・環境会議だけではなく、あちこちで起こっています。立命館大学教授の大島堅一さんは、原子力発電に対する財政支出は研究開発費や立地対策費を合わせて年間約4000億円とかなりの額にのぼり、この金額を考慮すると原子力の発電単価は10.68円/kWhになると述べています。ソフトバンク社長のの孫正義さんは「世界」2011年6月号に寄稿した論文で「2010年には太陽光発電が原発の費用を下回っている」と主張しています。また、「原発は事故が起こったらコスト高は自明だから廃止して当然」という意見がネットでは氾濫しています。本当のところはどうなのでしょうか? 日本エネルギー経済研究所や地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾さんらのグループは、近年の原発や火力の発電単価を詳細に検討してこれらの意見の検証を行っています。これらをまとめたものが次の表です。

Table 2. 原子力発電コスト試算一覧
Cost of nuclear estimated by Government, institutes and a researcher (Yen/kWh)
日本エネルギー
経済研究所
(2011.8)
地球環境産業技術
研究機構
(2011.5)
総合資源エネルギー調査会
(2011.3)
エネルギー白書2010
(2010.6)
大島堅一

(2010.9)
総合資源エネルギー調査会
(2004)
原子力
Nuclear
7.2 8-13 5-6 5-6 10.68 5.3
火力
Fired
10.2 (石炭coal)8-12
(LNG複合)10-14
(LNG combined)
(石炭coal)5-7
(LNG)6-7

(LNG)7-8
9.90 (石炭coal)5.7
(LNG)6.2
太陽光
Solar PV
- 55-63 37-46 49 49
地熱
Geothermal
(主に地熱)8.9 11-27 8-22 11.9
(単位 円/kWh Unit: Yen/kWh ) 送電端

(出典)
日本エネルギー経済研究所(2011)
http://eneken.ieej.or.jp/data/4043.pdf
地球環境産業技術機構・秋元グループ(2011)
http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/about-global-warming/download-data/PowerGenerationCost_estimates_201105.pdf
総合資源エネルギー調査会(2010)
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20110729/siryo2_2.pdf
エネルギー白書2010
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010/index.htm
大島堅一(2010)
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20110526/106571/
総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会報告書 2004年1月

地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元グループによると、各電源のコストは(2〜4円/kWhの送電コストを含み)、原子力8〜13円/kWh、石炭8〜12円/kWh、LNG複合10〜14円/kWhとなること、さらに太陽光は55〜63円/kWhとかなり高いことが示されています。

原子力発電の研究開発費や立地対策費などの財政支出を合わせると原子力は火力よりも割高であるとの大島さんの主張に対して、日本エネルギー経済研究所は、大島さんと同様に有価証券報告書を用いた原子力発電と火力発電のコスト試算を行い、2006年度〜2010年度の平均で、原子力7.2円/kWh、火力10.2円/kWhであり、やはり原子力が安いという結果を得ています。この原子力7.2円/kWhのコストの内訳は、資本コスト1.9円/kWh、燃料コスト0.6円/kWh、運転管理コスト2.7円/kWh、バックエンドコスト(使用済燃料の輸送、貯蔵、再処理及び廃棄物処分)1.8円/kWh、廃炉コスト0.3円/kWhからなります。仮に大島さんの主張するように、原子力関係の研究開発費(1.2円/kWh)、立地対策費(0.5円/kWh)、揚水発電費(1.2円/kWh)加えても、原子力のコストは10.12円/kWhであり、大島さんの試算コストの12.23円/kWhにはならないとしています。これらを表にすると次の通りです。

Table 3. 有価証券報告書を用いた原子力発電のコスト評価
Cost estimations of nuclear using annual securities report of electric power companies in Japan
大島堅一(2010.9)
K. Ohshima
日本エネルギー経済研究所(2011.8)
Institute of Energy Economics, Japan (IEEJ)
対象年度 1970〜2007 2006〜2010
原子力
Nuclear
原子力+揚水
Nuclear + Pump up Hydro
火力
Fired
原子力
Nuclear
原子力+揚水
Nuclear + Pump up Hydro
原子力+揚水
+事故補償10兆円
Nuclear + Pump up Hydro + compensation Fukushima
火力
Fired
発電単価
cost
8.64 10.13 9.80 7.22


7.22
(揚水pump up)1.25

7.22
(揚水pump up)1.25
(事故補償compen)1.32
10.2
開発単価
R&D cost
1.64 1.68 0.02 1.18 1.18 1.18 -
立地単価
Location
0.41 0.42 0.08 0.46 0.46 0.46 -
総単価
Total cost
10.68 12.23 9.90 8.86 10.11 11.43 10.2
(単位 円Yen/kWh) 送電端
(出典)
日本エネルギー経済研究所(2011)
http://eneken.ieej.or.jp/data/4043.pdf


上の表で、揚水発電はピーク電力対策として行っているもので、原子力発電の付帯設備と見なすのは無理があります。仮に、原発を廃止しても揚水発電は必要だからです(ピーク電力対策については一番下のFigure 4.をご参照下さい)。また、原子力発電関係の研究開発費のすべてを開発単価にかぶせてしまうと、太陽光などの新エネルギー研究開発費(例えばサンシャイン計画4,400億円、ムーンライト計画1,400億円、地球環境技術開発150億円など)もそれらのコストにかぶせないと筋が通らなくなります。それと、立地対策費をコストに含めても0.5円/kWhのコストアップにしかなりません。さらに、仮に福島原発事故の損害補償額を10兆円(4兆5400億円という試算が出ています)として、1965年度〜2010年度の日本の原子力による総発電量7兆5500億kWhで割ってみると約1.3円/kWhであり、ネットなどで言われているような「原発は事故が起こったらコスト高は自明」ということにはならないです。仮に、研究開発費の半分の0.59円/kWhをコストに上乗せすると、(発電単価 )+(開発単価)+(立地単価)=7.22円/kWh+0.59円/kWh+0.46円/kWh=8.27円/kWhで、これに原発事故の補償1.32円/kWhを加えても9.59円/kWhで火力より安くなります。

また、Table 2.の日本エネルギー経済研究所の試算で、地熱発電が8.9円/kWhと安くなっている点が注目されますが、これは国内のほとんどの地熱発電所が1990年代に建設され、減価償却が終わっているからです。一般水力発電(揚水を除く)についても同様で、1950年〜1970年に建設されたものが多く、減価償却が終わっているために4円/kWh程度と非常に安くなっています。新規に水力発電所を作るとなると原子力や火力よりも高くなります。それに、水力発電用ダムの適地が残っているかどうかも問題です。

上記のような有価証券報告書に基づくコスト評価では、その時点の電力コスト比較をすることの意味がありますが、発電所のライフサイクルにわたっての発電コストを算出することはできません。基本的には現実に即したモデルプラント(必要があれば規模別に)を決めて、そのライフサイクルからの発電コストを求めるのが正解だと思います。

上記の表やグラフからみて判るように、なんとかの一つ覚えみたいに太陽光発電に前のめりになるのではなく、風力や地熱や水力を優先した方が賢明でしょう。自然エネルギー(再生可能エネルギー)でまかなえる電力は多くても20%くらいまでで、それもかなり先のことと考えるのが妥当です。今すぐなんとかなる話ではなく、10年〜20年というレンジの話です。また、原発の代替としてLNG火力を建設するにしても、土地の買収、環境アセスメント、住民説得、都市計画審議会等での審議などの手続きに7〜8年、そして建設に2年と合計10年くらいかかるのが普通です(原発は20年くらいかかります)。

このような状況の中で、原発立地県の知事や自治体首長が、原発の再稼働にいろいろと条件をつけて事実上再稼働させないと、毎夏、毎冬、国民に節電を強いることになります。国民や企業から強制的に税金を徴収することで成り立っている国や県や地方自治体の長が、国民に節電を強い、経済に大打撃を与えておきながら、強硬な、もしかして少数派(noisy minority)に過ぎない一部の「市民運動」に騒がれたり圧力をかけられたりするのが恐しいからとか、次の選挙で落ちるかもしれないからとかの身勝手な論理で、原発再稼働を認めないのは政治家として失格です。もちろん、野田民主党政権の責任は重大です(意見の一本化ができるのかしら)。

脱原発とか原発の再稼働を認めないと主張するのであれば、石原都知事のようにLNG火力を建設するといった具体的な対案を示すべきです(それでも、すぐには間に合わないです)。この夏の節電のストレスは私には結構きつかったです。国民の節電ストレスが溜まっていたと思います。どうするつもりなのでしょう、冬まで時間がないです。私は望んでいたのとは違って、どんどん反民主党になっています。また、「脱原発」「卒原発」「自然エネルギーで原子力を代替できる」と主張する多くの知事たちにも不信感を強めています。同様に、放射能の問題に過敏に反応し、抗議の電話をよこしたり、電子メールを送りつけてきたり、時には集団で押しかけてくる自称「市民や市民団体」に、簡単に屈してしまう行政や自治体首長にたいしても不信感を強めています。

ところで、ソフトバンクの孫社長は月刊誌「世界」2011年6月号で、J. Blackburnらの報告書(放射性廃棄物を問題視するNPOの報告書)のグラフを引用し、2010年には太陽光発電が原発の費用を下回っているとしています。引用されているのは下のグラフです。

太陽光発電のコストが原子力発電のコストを下回っているとの図

Figure 3. ソフトバンク孫社長の引用した図

(出典) 地球環境産業技術機構・秋元グループ(2011)
http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/about-global-warming/download-data/PowerGenerationCost_estimates_201105.pdf

これについて地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元グループが以下のように指摘しています。
 @原子力コストに根拠の乏しいメディア(新聞)の推定値を用いている
 A太陽光発電の補助金を差し引いているので、それを調整すれば原子力発電コストは太陽光発電コストを大きく下回る
 B孫社長が一方で太陽光発電が原発の費用を下回っていると主張しながら40円/kWh、20年の買い取り価格を設定するのは矛盾がある
 C孫社長が一般家庭が月500円負担すれば、あたかも全原発を太陽光発電に置き換えられるように書いているが、最低でも5000円程度の電気代アップが必要である

同様の指摘は、上に引用した日本エネルギー経済研究所の報告書にもあります。孫社長のように社会の指導的立場にある方々が、「太陽光で原発を置き換えられる」と一般の国民に向かって大声で主張するのは困ったものです。国家のエネルギー政策は人気投票で決められるものではありません。

孫社長はこのホームページの「行き先不明の自然エネルギー協議会」で指摘したように、実際の年間発電量が次の式のように、「設備利用率」を掛けることを考慮していません。単に太陽光発電の定格能力で議論しています。

太陽光発電の実際の年間発電量 (kWh)=(発電設備の定格能力)×(設備利用率)×365日×24時間 (kWh)

太陽光発電の利用率は日本では12%くらいです(太陽が出ていないと発電しないし夜は発電しない)。孫社長には発電所の「設備利用率」の概念が欠落しています。もう気がついても良いはずですなのですが。もし、原発を潰すためには何をやっても良いのだという理屈で、知っていながらやっているとしたら悪質ですし、知らないというのも非常識です。




電力のピークロードと電源構成の図
FIgure 4. 1日の電気の使われ方と電源構成の関係
Peak load and composition of electric sources in Japan
中部電力のホームページから

(補注1)アメリカでは、原子力は石炭火力や天然ガス火力に比較して高いという試算があります。大きな原因は日本とアメリカの割引率(資金の調達コストや金利によって決まる)の違いによるものですが、アメリカでは石炭も天然ガスも自国産のものが使えるので割安なのだと思います。

(補注2)Table. 1 の地熱発電の設備利用率が70〜90%は高すぎるのではないのか、逆に建設コストが5万円/kWは安すぎるのではないのか、それだと発電単価はLNGや石炭火力並かそれ以下に安くならないとおかしいのではないのかとカンジニアリング(エンジニアの直感)します。確かにボイラーが入らない分安くなるし、メンテナンスは楽でしょうけれど。この数字だと、「自然エネルギーはどんどん地熱で行け」という話になります。ところで、地熱発電では、蒸気井(蒸気と熱水を取り出す井戸)と還元井(蒸気と分離した湯と復水を戻す井戸)は減衰するので、蒸気井は約10年に1本、還元井は約5年に1本堀直す必要があります。また、硫化水素などによる装置腐蝕がありますので半永久的に使えるものではありません。

(追記:2011/12/13)
「原発発電コスト、5割高の8.9円 事故対策考慮し試算」
朝日新聞の記事です。
http://www.asahi.com/politics/update/1213/TKY201112130600.html
<以下引用>
野田政権のエネルギー・環境会議(議長・古川元久国家戦略相)のコスト等検証委員会(委員長・石田勝之内閣府副大臣)は13日、電源ごとの発電コストの試算結果をまとめた。この試算をもとに、政権は来夏をめどに新しいエネルギー基本計画をまとめる。(中略)。原子力は、04年の資源エネルギー庁の試算で1キロワット時あたり5.9円だったが、事故を起こした原子炉の廃炉や除染に必要な費用のほか、立地交付金といった政策経費などを上乗せ。10年以降は5割高の「最低でも8.9円」となった。事故の対策費が1兆円増えるごとにコストは約0.1円ずつ増える。
<引用おわり>

「電源別コスト試算報告を提示 政府会議」
日本経済新聞の記事です。
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819481E3E1E2E0828DE3E1E3E0E0E2E3E39C9CEAE2E2E2
<以下引用>
政府のエネルギー・環境会議は13日、コスト等検証委員会を開き、原子力など電源別の費用を試算した「コスト検証報告」を正式に提示した。原子力は2004年の試算から約5割高だが、1キロワット時あたり最低8.9円で液化天然ガス(LNG)や石炭とともになお割安。地熱や風力も有力と評価した。政府は供給安定性や環境負荷なども加味した上で、来夏にも最適な発電方式の組み合わせである「ベストミックス」を含むエネルギー基本計画をまとめる。
<引用おわり>

「発電コスト:原発は8.9円『安価神話崩壊』」
毎日新聞の記事です。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111214k0000m040055000c.html
<以下引用>
原発は、福島第1原発と同規模の事故が40年に1度起きるのに備え、損害賠償や除染費用計約5.8兆円を考慮。立地補助金なども上乗せし、1キロワット時の発電コストは最低8.9円とした。事故費用が1兆円増加するごとにコストは0.1円上昇すると推計した。

火力は、燃料費上昇などで、石炭と液化天然ガス(LNG)が現在の1キロワット時9〜11円前後から30年に最大1円超上がる可能性を指摘。一方、現在は最低コストが30.1円の大規模太陽光は30年に技術革新などで12.1円に、9.9円の風力(陸上)も30年には8.8円に下がると予想した。
<引用おわり>

(Ominoのコメント)まだ火力発電の方が高いですし、これからはもっと高くなります。同じ情報源からなのに、朝日新聞と日本経済新聞の記事がずいぶんと違います。朝日新聞の立場は「原発は廃止すべき」のようです。毎日新聞も「貧乏でも良い、原発さえなければ」と主張しているように感じます。それは、「市民団体」や大方の民主党議員の先生方と同じみたいです。国民が貧乏になったらもっと新聞を買わなくなるのに。

「福島第1原発と同規模の事故が40年に1度起きる」。 うえ〜、恐ろしい。無責任な原子力ムラのムラビトたちによる災害(参考文献1、2)と菅直人災害(菅災)がまた起こるっていうのですか。
「石炭と液化天然ガス(LNG)が現在の1キロワット時9〜11円前後から30年に最大1円超上がる可能性を指摘」。 もっと上がります。ノーテンキ過ぎませんか。
「現在は最低コストが30.1円の大規模太陽光は30年に技術革新などで12.1円に」。 太陽光発電は、もう何十年も技術革新を続けてきました。技術者に責任をかぶせないで下さい。

エネルギー・環境会議(内閣府)と総合資源エネルギー調査会(経済産業省)は、より現実的なエネルギー政策を立ててください。とくに内閣府のレベルが「市民運動」並かそれ以下のレベルなのが心配です。

「原発停止の影響に苦しむドイツ」英フィナンシャル・タイムズ紙(2012年3月27日)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34860
<以下引用>
「昨年3月の日本の原発事故の直後に、ドイツの原発17基のうち8基が停止されて以来、ドイツの送電線は急な需要に対応するのに腐心してきた。2月初旬には、あわや停電が起きそうになった。」「2月初旬には、全国規模の停電に対する各社の懸念が欧州レベルにまで膨らんだ。」
<引用終わり>

(Ominoのコメント)ドイツが原発廃止に走ってしまったため、今度は欧州全体が電力不足になり、計画停電の恐れが出てきたそうです。ドイツの太陽光発電は事実上破綻しました(本ホームページの「各国の太陽光発電の普及比較」をご覧下さい)。日本が原発廃止と、実現性を無視した自然エネルギー依存計画を進めてしまうと、ドイツの轍を踏むことになります。今年2012年の日本の夏が思いやられます。何も決められない、決めない政治になっているからです。


(参考文献1)「メルトダウンを防げなかった本当の理由」山口栄一(同志社大学教授)
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20111215/202630/

電源喪失後も一定時間は原子炉が「制御可能」な状況にあったこと、その時間内に海水注入の決断を下していれば引き続き原子炉は制御可能な状態に置かれ、今回のような大惨事は回避できた可能性が高いことである。つまり、事故の本質は、天災によって原子力発電所がダメージを受けてしまったという「技術の問題」ではなく、現場の対応に不備があったという「従業員の問題」でもなく、海水注入という決断を下さなかった「技術経営の問題」だったと結論したわけだ。その責任の所在を突き詰めるとすれば、東京電力の経営者ということになる。

(参考文献2)「原発幹部、非常用冷却装置作動と誤解 福島第一1号機」(朝日新聞 2011年12月18日3時0分配信)
http://www.asahi.com/national/update/1217/TKY201112170568.html

東京電力福島第一原発の事故で最初に炉心溶融した1号機の冷却装置「非常用復水器」について、電源が失われると弁が閉じて機能しなくなる構造を原発幹部らが知らなかったことが、政府の事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)の調べで分かった。委員会は、機能していると思い込んでいた幹部らの認識不足を問題視している。また、その結果、炉心溶融を早めた可能性があるとみて調べている。

このほか3号機について、委員会は、緊急時に炉心を冷やすための注水装置を3月13日に停止させたことが事故拡大につながった可能性があるとみている。こうした点をまとめた中間報告を26日に公表する。なお、この「中間報告」東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会−委員長 畑村洋太郎氏)が公開されています(ここ)。
(最終更新2012年03月31日)

この記事に関連する本ホームページ内の記事へのリンク
「『シェールガス革命』はエネルギー危機日本の救世主か?」
「太陽光発電(太陽電池)と原子力発電(原発)のコスト比較」
「太陽光パネルの価格推移」
「各国の太陽光発電の普及比較」
「行き先不明の自然エネルギー協議会」
「エネルギー投資効率(EROIまたはEPR)」
「発電コストとエネルギー投資効率(EROI/EPR)の関係のグラフ」
「各発電方法による発電単価、EROI/EPR(エネルギー投資効率、LCA-CO2

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