日韓通貨交換:政府の見直し検討 ウォン相場混乱要因にも

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日韓通貨交換協定の見直しで想定されるケース

 韓国の李明博(イミョンバク)大統領の竹島上陸や天皇陛下への謝罪要求への対抗措置として、政府は日韓通貨交換(スワップ)協定の拡大措置を見直す方向で検討に入った。市場関係者の間では、韓国が即座に打撃を受けるとの見方は少ないが、欧州を中心に世界金融市場の不安定な状況が続く中、ドル資金の不足で韓国市場が混乱すれば、アジアの金融システム全体に悪影響が及ぶ可能性が高い。政府は国内世論に気を配る一方で、世界経済の状況を見極めるという難しい対応を迫られそうだ。

 同協定は日韓が緊急時に外貨を融通しあう仕組みで、01年に始まった。欧州債務危機の影響に対する懸念が高まった昨年10月には、日韓両国が1年間の時限措置として通貨交換の枠を130億ドル(約1兆円)から700億ドル(約5・6兆円)に拡大。欧州系金融機関による資金引き揚げに伴うウォン安に苦しんでいた韓国は、交換で得た円やドルをウォン買いの為替介入に活用し、ウォン暴落を阻止する環境を整えた。日本政府も「アジアの金融市場の安定化につながる」(財務省幹部)と判断、積極的に交換枠の拡大に応じた経緯がある。

 ところが、李大統領の対日批判で様相は一変。安住淳財務相は17日の記者会見で「日本国民の感情を逆なでし、看過ならない」と述べ、拡大措置の打ち切りを示唆した。安住財務相の強硬姿勢の背景には、ドルなどの調達に苦慮する韓国側の要請で拡大措置をとったにもかかわらず、韓国政府が「拡大措置は日本が申し入れた」と公言していることもある。政府高官は「欧州債務危機がくすぶっており、以前はこのまま延長を考えていたが、政治判断してもらうしかない」と語る。

 市場では、拡大措置が打ち切られても「チェンマイ・イニシアチブなど多国間の融通制度もあり、すぐに影響が出るとは考えにくい」(大和総研の長内智エコノミスト)と冷静な見方が多い。ただ、欧州債務危機が深刻化し、国際金融市場が動揺すれば「韓国から資金が引き揚げられ、ウォン相場が急落するリスクはある」(SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミスト)。長内氏は「もし信用不安が起きれば、防波堤の一つだった日韓通貨スワップの枠縮小はマイナス要因になる」と指摘する。

 松下忠洋金融担当相は21日の閣議後の記者会見で、協定見直しについて「必要だからできた仕組みで、冷静沈着に判断する必要がある」と慎重な対応を求めるなど、政府内でも拡大措置の打ち切りをめぐって温度差が生じているのが実情だ。【工藤昭久】

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