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2012年8月22日(水)付

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中国大使交代―民間起用の芽を摘むな

丹羽宇一郎・駐中国大使を交代させ、後任に外務審議官をあてるなど、秋の外務省人事の骨格を野田内閣が固めた。伊藤忠商事の社長、会長として中国との間で培ってきた人脈と手腕を期[記事全文]

中間貯蔵施設―前に進むために必要だ

福島県の復興に向け、原発事故による汚染土などを保管する中間貯蔵施設の具体的な候補地を、政府が示した。東京電力福島第一原発がある双葉、大熊両町と、第二原発がある楢葉町の3[記事全文]

中国大使交代―民間起用の芽を摘むな

 丹羽宇一郎・駐中国大使を交代させ、後任に外務審議官をあてるなど、秋の外務省人事の骨格を野田内閣が固めた。

 伊藤忠商事の社長、会長として中国との間で培ってきた人脈と手腕を期待され、丹羽氏が民間から初の中国大使についたのはわずか2年前のことだ。

 今回の早すぎる交代が、民間からの大使起用の芽を摘むことになってはならない。

 丹羽氏の交代論が浮上した直接のきっかけは、東京都の尖閣諸島購入計画について、英紙のインタビューで「日中関係に極めて重大な危機を招く」と語ったことだった。

 日本固有の領土である尖閣購入と外交問題は関連しない。そんな日本政府としての公式な立場と相いれない発言であったことは間違いない。

 一方で、現実にはこの計画が日中双方の機微に触れることはごく普通の常識ではないか。

 民間出身の大使に期待されるのは、外務官僚とまったく同じ発言や発想ではないはずだ。

 むしろ、プロの外交官とはひと味違う、率直な発言や新鮮な発想、時には政府にも厳しい直言ではないか。

 残念なのは、民主党政権が丹羽氏をしっかりバックアップしてこなかったことだ。

 「民間出身の大使が定着していくかどうかの試金石だ」「人事で支える態勢をつくる」

 みずから丹羽氏を口説いた岡田克也外相はそう意気込んでいたが、3カ月後に党幹事長に転出してしまった。

 大使には最適の人材をあらゆる分野から広く起用する。3年以内に約2割を外部からの任用とし、外務官僚との健全な競争を促す――。

 外務省が大揺れに揺れた機密費詐取事件を受け、外相の私的懇談会が10年前にまとめた最終報告はそう求めていた。

 丹羽氏の起用もこの流れに沿ったものであり、その指摘の多くはいまも当を得ている。

 一連の人事でもうひとつの疑問は、駐米大使に外務事務次官が11年ぶりにつくことだ。

 かつては、次官経験者が駐米大使につく慣例があった。

 10年前の最終報告はそれをあらため、次官を「最終ポスト」とするよう求めた。

 外務官僚の最高責任者が次官なのか、駐米大使なのかがはっきりしない状態を変える必要があると考えたからだった。

 日本外交の現状は厳しい。改革を骨抜きにし、外務官僚にとっての「古き良き外務省」を復活させる人事が、肝心の外交力を弱めることを恐れる。

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中間貯蔵施設―前に進むために必要だ

 福島県の復興に向け、原発事故による汚染土などを保管する中間貯蔵施設の具体的な候補地を、政府が示した。

 東京電力福島第一原発がある双葉、大熊両町と、第二原発がある楢葉町の3町で、計12カ所が候補になった。

 貯蔵施設にめどがつかねば、市町村ごとの仮置き場の確保が進まず、除染作業が遅れる。それは復興に影響する。

 避難生活が続く地元の人たちが、受け入れ要請に怒りや疑問を感じるのは当然だ。だれにとっても難しい選択になる。

 だが、前に進むにはどこかに造るしかないのも事実だ。政府と福島県と3町は、候補地の地質や放射線量などの調査に向け、協議を始めるべきだ。

 政府はまず、候補地をどんな基準で選んだか説明しなければならない。環境省は、谷や丘などの自然の地形をいかしつつ必要な面積を確保でき、汚染土を運搬しやすい主要道路に近いこと、などの条件をあげた。

 一方で、細野環境相は昨年、放射線量が高いため当分住めそうにない地域に貯蔵施設を造る考えを示し、「年間の線量が100ミリシーベルト以上」という目安も示した。

 候補地にはそうした地域もあるが、楢葉町のように線量が比較的低い地域もふくまれる。住民が納得できる説明が、次の意見を交わす基礎になる。

 復興への知恵も必要だ。

 細野氏は、汚染土から放射性物質をえり分けて量を減らす研究施設など、雇用を増やす案を話している。地元の人たちが待つのは具体的な政策だ。

 県内には、除染作業を進めながら仮置き場に苦労している市町村が少なくない。国が直接除染を行う11市町村でも、7月末には田村市で本格的な作業が始まった。中間貯蔵施設はますます必要になる。着工までの調整と調査、そして建設には時間がかかる。早く場所を確定させる必要がある。

 原発事故による家や土地への賠償を十分受けられるか、避難住民は不安だ。だから「賠償額がはっきりしてから中間貯蔵施設の受け入れについて考える」という声は無理もない。

 東京電力は7月に、土地や建物、家財道具などについて賠償基準を示した。不十分な点がないか検証しなければならない。

 「中間貯蔵と言いつつ、最終処分場になるのではないか」。地元の不安に対し、政府が30年以内にと約束した県外の最終処分場の見通しはまったくたっていない。責任を忘れず、福島県側との協議に臨んでほしい。

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