権利を主張するも責任は果たさない
一方で、権利意識に目覚めた労働者たちの「労働の質」は高いと言えるのか。
彼らは饒舌に待遇改善を要求するものの、「責任を果たす労働者」としての意識は残念ながら低いと言わざるを得ない。
ある日系工場の日本人幹部は次のように話す。「不動産投資という甘い汁を吸った彼らには、もはや地道にコツコツ働こうなどというマインドはありません」
要するに、真面目に働くのが馬鹿馬鹿しくなってしまったのだ。「濡れ手に粟」しか頭の中にない彼らにとって、額に汗して労働に励むことに価値は見出せない。
彼らをそうさせてしまったのは不動産バブルだ。早い話が、不動産バブルが中国人の勤労意欲を失わせてしまったのだ。
中国では2005年頃から不動産価格が暴騰し、経営者や管理職はこぞって不動産投資に走った。労働者たちも、一瞬にしてあぶく銭を手にする上司や仲間を見てきた。
「『労働は尊いものだ』と教えても馬耳東風。私は、中国での生産はこれ以上できないと思っている」と、前出の日本人幹部は打ち明ける。
悪いのは労働者ではない、彼らをそうさせる社会だ。中国はこれだけ発展したが、人々は心のバランスを失い、暮らしやすい世の中だとは言えない。特に労働者の心は崩壊の危機に瀕しているというのが、筆者の実感だ。
中国当局は、デモや暴動などの労働紛争について「社会主義の初期段階における矛盾の表現形式の1つ」としている。その一方で各行政単位で緊急対策措置が練られるなど、緊張状態が高まっている。
その中で日本企業は厳しい立場に置かれている。労働者のご機嫌とりに徹するのか、それとも見切りをつけるべきなのか。今、多くの日本人経営者の気持ちが揺れている。
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