経営側には、法律に従えない理由がある。景気が悪いのだ。特に外需依存の輸出型の工場ともなれば、原材料や賃金の高騰で四苦八苦している。ボーナスをカットするところもあれば、給料支給を遅滞させるところもある。
広東省では工場の吸収合併や倒産、移転などで、労働者の就業問題が深刻になっている。企業には報酬を補填する余力もない。一方、労働者は物価上昇や生活コストの上昇から、切実な思いで待遇改善を求める。だが、希望は通らない。その結果、組織化し、暴徒化してしまう。
権利意識に目覚めた労働者たち
中国で労働集約型産業を支えてきたのは、農村出身の民工たちだ。一昔前は「職にありつければそれでいい」と黙々と働いた「物言わぬ労働者」でもあった。
ところがその労働者が、1980年代、90年代生まれの「80后、90后」世代に代替わりするようになってから、様相が変わってきた。彼らは教育を与えられ、「IT武装」し、職を選ぶ世代である。携帯電話やインターネットを駆使して全国各地の賃金情報を入手し、現状より好待遇の職場が見つかるとさっさと転職する。
前世代の民工は「堪え忍ぶしかない」「諦めるしかない」と我慢してきた。それに対して新世代は、「自由」「人権」「平等」を唱え、労働法を熟知した法律意識の高い世代でもある。
中国のサイト「中国改革論壇」によれば、「一世代前の民工が、『権利は国から与えられたもの』と理解しているのに対して、新世代の民工は『人が生まれながらに持つもの』と認識している」という。そこには天と地ほどの差が存在する。
そんな新世代が「労働契約法」を盾に、群れを成して抗議活動に出る。ここ数年における権利要求や陳情、スト、暴動など労働紛争の増加は、新世代の民工の権利意識と決して無関係ではない。
そして権利意識の目覚めには、「ゴネ得」という中国人らしい現実的な一面も垣間見られる。
「騒げば金が取れる、会社が金で解決する、そんな打算は否定できない。しかも、それが日本企業であればなおさらだ」と苦々しく語る日本人経営者もいる。領土・領海で日中が対立を深める今、日系企業の経営環境には冷たい逆風が吹く。
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