相続の手続きに関連する仕事をしていると、相続人となる方がまったくいらっしゃらない、というケースを経験することがあります。相続人がいない状態で亡くなってしまった方の遺産相続は、一体どうなってしまうのでしょうか。
妻「あの、例の預金通帳の件、何か解決方法は見つかったの?」
夫「いや、まだなんにも……。やっぱり、亡くなった彼から見るとオレは従兄弟(いとこ)にしかすぎないだろ。だから、いろいろと調べようにも難しいところがあるんだよ」
妻「両親は亡くなっていて、兄弟姉妹もいない。奥さんも子供もなかったから、あなたがほとんど唯一の親戚だったのにね」
夫「いくら高血圧の持病があったにしても、オレと2つ違いの63だから、ほんと、まだ若いよな。ちょっと事情があって、あいつが小さい頃のしばらくの間、オレの家に身を寄せて住んでたこともあるんだ。田舎の山や川で、よく泥だらけになって一緒に遊んだもんだ」
妻「こっちで再会してからも、兄弟同然の付き合いだったわね。10年くらい前に軽い脳梗塞で倒れたときくらいかしら、今回の預金通帳のことが始まったのも」
夫「そうだよ。こんなことで突然倒れたら皆に迷惑かけるかもしれないから、っていうので、僕に通帳を預けてよこしたんだ。万一の時にはここから金を使えって、カードと印鑑まで渡してきてね。死んだらお前にあげるから使ってくれとまで言ってたけど、まさかこんなに急に亡くなるとは思わなかった」
妻「本当に急だったわよねぇ」
夫「預かっている通帳の他にも、あと3つ4つほどあるみたいなんだ。堅実な暮らしをしていた彼らしく、どれも結構なお金が入っているみたいでね……。いったいこの先、どうすればいいんだろう」
相続人がいらっしゃらない方が亡くなった場合、原則として、その方の遺産は国に帰属することになります。もう少し具体的にいうと、遺産の管理事務をしてくれる正式な管理人を裁判所に選んでもらい、選ばれた弁護士などの管理人が、遺産のなかから故人の借金などの債務を差し引いて、残ったプラスの資産を国庫に入れることになるのです。