民主党の国会議員小沢一郎民主党幹事長は、12月12日、中国訪問の帰途韓国を訪問し、李明博大統領と会見した。上の発言は、同大統領との会見に先立ち、韓国メディアの取材を受けたなかでのものである。
これまで、金大中大統領や盧武鉉大統領ら韓国の歴代の大統領は、天皇陛下と接見した折、日本政府に対し「ぜひ天皇陛下を韓国へお招きしたい」と要請してきた。現在の李明博大統領も、9月に日本のメディアとの会見のなかで、「両国関係の距離感をなくし、終止符を打つ意味がある」として天皇ご訪韓への期待感を表明している。
この李明博大統領の天皇招聘発言に対して、日本側は、羽毛田信吾宮内庁長官が「一般論として、両陛下の外国ご訪問は、国際間の懸案事項や政治的課題を解決するためではない」と慎重な態度を示していた。10月には、訪韓した鳩山由紀夫首相も「簡単に『わかりました』と申し上げることができない」と婉曲に断っている。日本政府が慎重な姿勢を示したのは、来年、2010年が日韓併合(1910年)から100年目という特別な年に当たり、韓国メディアがこぞってナショナリズムをたぎらせ、「日帝統治36年」についての新たな謝罪の言葉を天皇陛下に求める論説を掲げ、反日ムードを煽ることが十分に予測できるからである。
そうした慎重姿勢をいっきに覆したのが、冒頭の小沢発言だった。民主党の最高実力者の発言だからと、韓国メディアが日本側は天皇ご訪韓を受諾したと受け止めたとしてもおかしくはない。この記者会見の後、李明博大統領と会見した小沢幹事長は、2010年が両国の新しい出発点となるよう、人的・文化的交流を積極的に推進することなどの考えで一致したという(読売新聞12月13日付)。
しかし、2010年の天皇陛下のご訪韓については、日本国内になお否定的な意見が多いのも事実だ。そのひとり、麗澤大学教授の松本健一氏は「小沢一郎・民主党幹事長が、韓国側から『天皇訪韓を歓迎する』と言われ、単純に受けているとしたら"浅慮"と言わざるを得ない。天皇陛下が個人的に希望したとしても、特別な年の訪韓やお言葉が極めて政治的な事件として受け取られるのは当然だからです。無理に行えば、民主党による『政治利用』が改めて大きな問題になる」と述べている(「サンデー毎日」2010年1月13-20日号)。
小沢幹事長が、中国の習近平国家副主席と天皇陛下の特例会見に危惧を表明判した羽毛田宮内庁長官に対して、「天皇の国事行為に内閣の助言と承認は当然。批判するなら辞めてからにしろ」と叱責する発言をしたのは、韓国における発言の翌日、12月13日のことだった。この小沢発言は新聞各紙がこぞって批判的な社説を掲げたのをはじめ、与党内部からも批判の声が上がった。しかし、小沢幹事長はその後12月21日の定例記者会見でも「天皇陛下の外国要人との会見は国事行為そのものではない」と前言を一部訂正しながらも、「天皇陛下の行動の責任を負うのは国民の代表、国民が選んだ政党内閣。だから内閣が判断したことについて、天皇がその意を受けて行動なさるのはなさるということは当然だ」との考えを重ねて表明している。
この憲法解釈が正しいかどうかは別に、韓国では、かつて満州ハルピン駅で日本の伊藤博文元首相を暗殺(1909年10月)した安重恨をたたえる「義挙100周年記念式典」を、本年10月に盛大に開催している。この盛り上がりが、来年の日韓併合100周年にまで持ちこされ、さらにもし天皇ご訪韓が強行されるとなると、民主党の「天皇の政治利用」が再び問題視される可能性は高い。
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