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「クマとの遭遇」激増

2012年08月11日

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ホテルリステル猪苗代が導入した「シシバイバイ」。青い光がクマの目に入るよう、地上40センチの高さで設置した=猪苗代町

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 県内でクマの目撃情報が激増している。なかでも福島市の住宅街周辺で「クマとの遭遇」が増えた。秋まで続くモモやリンゴなどの収穫シーズンは、クマの活動が本格化する時期だ。なぜ目撃情報が増えたのか。その理由を追った。

 ●周囲山林 住民が巡回

 福島市松川町の松川第2仮設住宅にクマが出た。6月17日の朝のことだ。
 「朝7時半ごろ、近くの第1仮設住宅の自治会長さんがうちに来て、『駐車場にクマが出たあ』と言った」。飯舘村から避難し、第2仮設住宅の自治会長を務める佐藤明康さん(70)は、興奮気味に語った。

 佐藤さんは車に乗ってクマを追いかけた。カメラを持って草むらを進むと、約50メートル先、立ち上がったクマと目があった。「30秒ぐらいじっと動かなかったよ。その間にシャッターを切ったら、クマは山林に歩いていったんだあ」

 仮設住宅は国道4号沿いにあり、福島大から南東に約3キロほど離れている。辺りは山林が広がる。飯舘村で猟友会に所属していたが、これまでクマに出合ったことはない。佐藤さんは「仮設住宅にクマが出ても不思議でない」と痛感した。週3回、住民7人で巡回しながら警戒している。

 ●人間恐れぬ「新世代」

 福島市でのクマの目撃情報は7月末時点で82件あり、昨年同期(14件)の約6倍だ。

 福島市南部の松川町や蓬莱団地など住宅地での目撃が増えた。土湯温泉周辺の山林でクマが目撃されることはあったが、その先の住宅地に出没することは昨年まではあまりなかった。

 クマが住宅地に現れるようになった原因について、県自然保護課は「クマの一部が人間を恐れなくなった可能性がある」と指摘。担当者は「新世代クマ」と呼んでいる。

 背景にあるのは、耕作放棄地の広がりだ。手入れをしている農地ではさくで囲ったり、動物を追い払ったりする。だが、耕作放棄地では人間の存在を感じることはない。荒れ放題になった畑にクマが入り込み、住宅地に迫ってくる。

 親グマが子グマを連れてくれば、子グマは住宅地辺りまで生息地ととらえて、人間を見ても警戒しなくなるという。県内はこれからモモ、リンゴ、ナシの収穫で最盛期を迎える。県は摘み取った果実を畑に放置しないよう、市町村を通じて注意を呼びかける。

 また、県内のほぼ全域で目撃情報が昨年より増えていることについて、県自然保護課は「メディアの報道や自治体の注意喚起で、県民がクマに敏感になっているのではないか。昨年は震災直後で、クマに関心を払うどころではなかったかもしれない」とみる。

 ●原発事故で山から人の気配消え

 原発事故の影響を指摘する声も出ている。
 放射線の影響でイノシシや山菜から高い放射性物質が検出され、狩猟や山菜採りで山に入る人が減っているからだ。

 「銃砲や人間の声などが聞こえなくなり、山林でも人間の存在を感じる機会が減っている。クマの行動範囲が広がるのは当然だ」。県猟友会の副会長、冠木一彦さん(75)は、そう語る。

 加えて、猟友会は会員の高齢化や減少に悩んでいる。県内の会員は1975年の約1万6千人をピークに、今では約2500人まで減った。

 県猟友会事務局長の佐藤仁志さん(67)は「鉄砲を使ったイノシシやシカの猟はクマへの抑止力にもなってきた。『人間の近くにおいしい果実や野菜がある』とクマが学習したなら、今後の猟のあり方を見直す必要がある」。

 ●自衛商品注文激増

 不幸にも林や畑でクマと遭遇した場合はどうすればいいのか――。県自然保護課は、▽大声で叫んだり、石や木ぎれを投げつけたりしない▽クマから目を離さず、ゆっくりと後ずさりして離れる――と助言する。「死んだふり」は厳禁だ。クマは死んだ動物の肉を食べる雑食性のため、寝転んで動かない人間にはむしろ近づいてくるという。

 自治体や企業には、自衛の動きが広がる。猪苗代町での目撃は昨年同期の4倍に。6日には、トウモロコシなど野菜を食い荒らす被害が猪苗代署に今年初めて寄せられた。
 敷地の畑でクマの足跡が見つかった町内の「ホテルリステル猪苗代」は7月、福島市の会社が販売する防除器具「シシバイバイ」(6500円)を畑周辺に設置。ケース内の発光ダイオード(LED)が夜間、青く光る。青い光に弱いクマの特性を逆手にとった商品だ。販売会社によると、今年の売り上げは例年の2倍の400個。クマを傷つけずに追い払いたいと考える会津地方の市町村から注文が増えた。

 福島県と同じくクマが多い長野県でクマ被害の予防に取り組むNPO「ピッキオ」の職員はこう指摘する。「“追い払う”だけでなく“寄せ付けない”のも大事。家の外にクマを誘う生ゴミやドッグフードを置かない心がけから、クマとの共存は始まります」(池田拓哉)

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