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第3部・見えない敵(5完)海の汚染/陸から移染、希釈妨げ
 | 試験操業で漁獲されたミズダコ。放射性物質は検出されなかったが、漁業再生の道のりは険しい=14日、相馬市の松川浦漁港 |
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<漁獲3種に限定> 1年3カ月ぶりの底引き網漁。高値が付いたはずのカレイやカニも掛かったが、漁師は海に捨てるしかなかった。 14日、福島第1原発事故で自粛が続く福島県沖の漁業再開に向け、相馬双葉漁協(相馬市)が始めた試験操業。漁獲が許されたのは、放射性セシウムを体内に取り込みにくいタコと貝の計3種に限られた。それも出荷はされず、放射性物質検査のサンプルとなった。 幸い放射性物質は検出されず、次の試験操業では漁獲物が販売ルートに乗る見込みだが、漁師らは「この3種だけでは商売にならない。いつになったら事故前の漁に戻るのか」と不安を口にする。 「低レベル放射能汚染の滞留水(1万トン)と地下水(延べ1500トン)を海洋に放出します」 昨年4月4日午後5時すぎ、東京電力は事前の連絡もせず、福島県漁連(いわき市)に1枚のファクスを送った。 会議に出席していた漁連幹部は2時間後にファクスに気付いたが、既に汚染水の放流が始まっていた。
<想定通りならず> 「海で希釈されると想定していた」。東電は河北新報社の取材にこう説明するが、想定通りにはならなかった。 福島第1原発の事故直後、海に入った放射性物質は、原発から直接放出された汚染水と、大気から海に降下したものの2種類。一部は泥など浮遊する固形物に付着して海底に沈んだ。長く沈着すると、海底土とそこに生息する生物の放射線量を上げる。 文部科学省がことし3月に公表した海底土の調査結果=図=では、福島第1原発30キロ圏を除いて最も数値の高い地点は仙台湾にあった。 第1原発周辺の放射性物質は黒潮に乗って北上。黒潮は牡鹿半島付近で親潮とぶつかり、沿岸から離れていく。一方、仙台湾には反時計回りで沖合から沿岸に向かう沿岸流が流れている。 放射性物質は沿岸流に乗って仙台湾に入り、巡回した。数値が最も高かった地点の海底は泥場で底流も弱く、放射性物質が集中したとみられる。 昨年夏以降の台風やしけで海中は何度もかき回された。沈着した放射性物質は海底から離れ、希釈されたとみられるが、文科省の調査では低減傾向は鈍く、逆に昨年より増えている地点もある。
<阿武隈川 供給源> 東北大大学院農学研究科の片山知史教授(水産資源生態学)らは、事故直後にはない新たな放射性物質の供給源として、阿武隈川からの流入に注目している。福島県中通りを南北に貫き、仙台湾に注ぐ。 片山教授は「阿武隈川は中通りの除染や雨で流された放射性物質を集め、海に運ぶ。除染は陸上に限ったことであり、環境全体では『移染』という言葉が現状を表している」と指摘する。 複数の専門家によると、放射性物質による海洋汚染は現状では手の施しようがなく、希釈されるか半減期が過ぎるのを待つしかないとされる。 宮城県でも全海域のマダラなどが出荷制限されるなど、水産業は深刻な打撃を受け、震災復興の妨げになっている。 片山教授は「小売店で全水産品の放射線量を調べるシステムを築くなど、国が安全性を保証し、風評被害を食い止める施策を実施しなければならない」と訴えている。 (原子力問題取材班)
<メモ>東電によると、昨年9月までに福島第1原発事故で海に入った放射性物質の推定量はセシウム134(半減期2年)が3500テラベクレル、セシウム137(同30年)が3600テラベクレル(テラは1兆)に上る。この数値には、川などを通じ陸から流入した量は含まれていない。
2012年06月19日火曜日
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