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連載「酒の罪と病」(1) 葬儀にも出られず… | ||
コンビニの駐車場を出た瞬間だった。県内に住む吉田浩美さん(40)=仮名=は昨秋、軽乗用車を運転し、信号待ちの乗用車に追突した。警察官が吉田さんを調べると、基準値の0・15ミリリットルを大きく上回る呼気1リットル中0・75ミリリットルのアルコールが検出された。道交法違反(酒酔い運転)で現行犯逮捕された。 「自分では覚えていないんですけど、警察が来るまでの間も、コンビニで焼酎を買って飲んでいたようで…」。事故前日、就職試験の面接に間に合わず、やけになって酒に手を出した。カップ酒やビールを飲んだが、量は覚えていない。酔ったままハンドルを握ってしまった。 * 酒酔い運転の場合、現在の法定刑は「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」。ここ10年で飲酒運転の厳罰化は進み、2002年の道交法改正前の「2年以下の懲役又は10万円以下の罰金」と比べて罰金は10倍になっている。裁判所は、吉田さんに罰金60万円の略式命令を下した。 「無職の自分には正直厳しい金額だった。厳罰は知っていましたが、軽く考えていました」。納付できない場合、1日5千円で計算した日数だけ、労役場に留置される。吉田さんは、佐賀少年刑務所で労役をするしかなかった。外出はもちろん、電話も許されない。刑務所では、仕出し弁当の袋などを作った。「むなしさと、自分自身が情けなくて、涙が出ました」 労役を半分ほど終えた今春、母親から手紙が届いた。祖母が亡くなったことを伝える手紙だった。おばあちゃん子だった吉田さんは「死に目にも会えず、葬儀にも出られず、こんなところで何をしているんだ」。刑務官の目の前で、大声で泣いた。労役を終え、祖母の遺骨に手を合わせながら誓った。「二度と飲酒運転はしない」 * 罪は償ったが、厳罰化の現実は甘くなかった。刑事罰とは別に行政処分があり、吉田さんは運転免許取り消しとなり、3年間は再取得できない。持っていた軽乗用車は知人に売った。県内では車がないと、就職どころか移動もままならない。店員のアルバイトで、何とか食いつなぐ。 1人暮らしの部屋の壁には、大好きだった祖母の遺影が掛けてある。「飲酒運転は自分だけのことだと思っていたけど、結局は家族や親戚にも迷惑を掛けた。酒を断って、地道に頑張るしかない」 酒を断つ-。この言葉に大きな意味がある。吉田さんは2009年、アルコール依存症と診断されていた。 ◇ ◇ 福岡市東区の海の中道大橋で2006年8月25日、同市職員の飲酒運転の車に追突され、幼児3人が死亡した事故から間もなく6年。佐賀県内でも後を絶たない飲酒運転と、その背景にあるアルコール依存症などの実態に迫り、根絶に向けた方策を探る。 |
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2012年08月20日更新 |