巨人は19日、広島に4—3でサヨナラ勝ち。満身創痍のGの主将・阿部が赤ヘルの守護神・ミコライオから値千金の劇弾となる16号ソロを右翼席最前列に叩き込み、熱戦にケリをつけた。これで広島に同一カード3連勝。この日中日が敗れたため、明日21日にも待望の優勝マジック「32」が点灯する。
ダイヤモンドを回って最後に本塁で待つのはナインが迎える“歓喜の輪”。しかしその中に、阿部はあまり表情を変えることなくゆっくりと入っていった。本来ならば笑顔を爆発させてナインの渦の中に飛び込んでいくはず。そこに、この試合に隠された一部始終が凝縮されていた。
まずは痛めている左足首だ。首脳陣の計らいで一塁を守っているだけではない。最近は竹田チームドクターに消炎剤の入った注射を打ってもらい、試合に臨んでいる。阿部は「うちには『世界の竹田』という一番注射のうまい人がいるからね」とおどけるが、捕手という生傷の耐えないポジション、そして休むことのできない4番打者という責任。心身にのしかかる重圧は計り知れない。
この日はさらに「メーカーの人が気を遣ってくれた。履いてても疲れないね」という、特製のスパイクを履いて臨んでいた。
「アメフト用のものを基本に作ってあるみたい。アメリカにあったのを持ってきてくれた」というそれは、従来のスパイクよりも足首がしっかり固定されている。
阿部の左足は、打撃の際に遠くに飛ばすパワーを生み出す「軸足」にあたる。ミコライオの外角150キロ超の直球を右方向に運べたのも、こうしたサポートがあったからだ。
もう一つ、阿部を奮い立たせていたのが、自らの“失策”だった。2点をリードされた3回一死一塁の場面で先発・宮国がけん制悪送球により三塁まで進めると、梵の犠飛で3点目を失った。記録上は宮国の失策だが、阿部は「あれは俺のミスだね。野手の気持ちが痛いほど分かったし、宮国に悪いなあと…」。
その直後に、自らの右前打で1点を奪ったものの、7回裏に無死二塁の好機には右飛に倒れ「まったく仕事ができなかった」と悔やんだ。借りを返す意味でも、何が何でも自分で試合を決めたかったのだ。
試合後、お立ち台が済んだ後も表情は引き締まったままだった。最短で21日にも優勝へのマジック「32」が点灯するが「まだまだ8月中だし、9月に入って残り20試合になってからが勝負。中日も強いし、引き下がらない。やるゲームは一つも落とせない気持ちでやっていく」。主将として、巨人の4番として、気持ちを緩める事はない。