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2012年8月20日(月)付

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公共施設更新―「白書」作りで仕分けを

財政難のなか、学校や病院、福祉センターなど、私たちの生活に密着した公共施設の維持・更新をどうするか。わが国の施設の多くは高度成長期に建てられ、更新時期を迎えているだけに[記事全文]

認知症政策―入院より在宅めざせ

認知症で精神科の病院に入院する人が増えている。1996年に約2万8千人だったのが、2008年には5万2千人とほぼ倍増した。症状が高じた末、困り果て[記事全文]

公共施設更新―「白書」作りで仕分けを

 財政難のなか、学校や病院、福祉センターなど、私たちの生活に密着した公共施設の維持・更新をどうするか。

 わが国の施設の多くは高度成長期に建てられ、更新時期を迎えているだけに、差し迫った課題である。

 ところが、国や多くの自治体は対策を先送りしているのが実情だ。市民と問題意識を共有しつつ、早く具体策を講じなければならない。

 そのために効果を発揮しそうなのが、様々な公共施設、いわゆる「ハコモノ」について、建て替え時期や費用の見通しなどを網羅した「白書」作りだ。

 神奈川県西部の盆地に広がる秦野(はだの)市は人口約17万人。「住民の高齢化と同様に、公共施設の老朽化は大変な問題」という危機感から、3年前に白書をまとめた。

 会計が独立している上下水道や、市単独では対策が立てにくい道路などを除く450余の施設を対象に、更新時期と必要な投資額、人件費を含む経費や利用率を調べた。

 財政見通しと合わせた分析結果は「すべてのハコモノを維持すると、市の借金である市債の残高が2倍に膨れる」だった。

 将来の世代に巨額のツケを回すわけにはいかない。白書に続いてまとめた再配置計画では、原則として新たなハコモノは造らず、既存の施設も人口の減少にあわせて40年間で3割減らす方針を打ち出した。

 住民の「総論賛成、各論反対」を説得し、施設を仕分けしていくには、幅広い分野を対象にし、施設ごとの経費や利用率までデータの公開を徹底することがカギとなる。白書作りが出発点とされるゆえんである。

 同様の白書を作る自治体は徐々に増えており、市区では50前後になるようだ。秦野市への視察や講師派遣の要請も多い。ノウハウを共有し、取り組みを各地に広げてほしい。

 こうした先行自治体と比べ、国の意識は遅れている。

 財政に余裕がないのに、昨年来、整備新幹線の新規着工や高速道路の工事凍結の解除など、大型事業への着手を相次いで打ち出している。

 このほどまとめた社会資本整備重点計画では、四つの重点目標の一つに「的確な維持管理・更新」を掲げたが、補修によってより長く使う「長寿命化」や計画的な更新などを列記したのにとどまった。「縮減」へと踏み込む必要はないのか。

 国も自治体と同様の白書を作るべきだ。そうすれば、答えはおのずと出るだろう。

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認知症政策―入院より在宅めざせ

 認知症で精神科の病院に入院する人が増えている。

 1996年に約2万8千人だったのが、2008年には5万2千人とほぼ倍増した。

 症状が高じた末、困り果てた家族が精神科を頼る。引き受け手がなく入院を続けるケースも多い。

 こんな流れを変え、本人の意思を尊重して、できる限り住み慣れた環境で暮らせる社会にする――。厚生労働省がこんな新しい考え方を打ち出した。

 遅きに失した感はあるが、10人に1人が認知症になる時代である。穏やかに老後を暮らせる環境づくりにつなげてほしい。

 同省のプロジェクトチームがまとめた認知症への施策に関する報告書は、次のような率直な反省の言葉から始まる。

 「私たちは、認知症を何も分からなくなる病気と考え、徘徊(はいかい)や大声を出すなどの症状だけに目を向け、認知症の人を疎んじたり、拘束するなど、不当な扱いをしてきた」

 残念だが、こうした社会の偏見はまだまだ根強い。

 だが、認知症は何もわからなくなる病気ではない。初期から適切に対処すれば、自宅や施設で本人らしい暮らしを続けることもできる。

 入院に至るのは、200万人ともいわれる認知症の人のごく一部ではある。しかし、深刻な実態が少なくない。

 厚労省の調査によると、認知症の人の精神科病院での平均在院日数は、900日以上にも及んでいる。

 家族や施設などの引き取り手がいないという理由のほか、多くの病床を抱える精神科病院が認知症の人を積極的に受け入れている事情もあるようだ。

 いま必要なのは、早期に診断し、早い段階から生活の支援や往診を受けながら、住み慣れた自宅や施設で安心して暮らせる環境づくりを急ぐことだ。

 今後、厚労省は、看護師や保健師らが自宅を訪れて相談にのる「初期集中支援チーム」を全国約4200カ所に置く。専門医が自宅や施設へ往診する「身近型医療センター」も300カ所設けるという。

 モデルの一つは英国だ。09年に「国家認知症戦略」を策定して初期対応に力を入れた結果、質の高い在宅生活が続けられるようになってきている。

 人材育成など課題は多い。地域の特徴を生かした態勢づくりを支援することが大切だ。

 認知症には誰もがなる可能性があり、決して特別な病気ではない。どう向き合うか、まさに社会の知恵が問われている。

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