4年前、北京五輪の聖火リレーの際、ソウル市内は大混乱に陥った。中国によるチベット弾圧と脱北者送還に抗議するデモ隊に向かって、韓国に住む中国人は集団暴力に及んだ。約6500人の中国人や投石にとどまらず、鉄パイプや金属切断機を暴力に及び、ホテルロビーに乱入し、警察官にけがまでさせた。
当時、北京五輪をきっかけとして反中デモが起きたのはソウルだけではない。サンフランシスコ、ロンドン、パリ、ベルリンなど聖火リレーのルートのあちこちでチベット弾圧に抗議するデモが行われた。しかし、中国人が集団暴力に出たのはソウルだけだった。首都のど真ん中で外国人によって公権力が無力化されるという前代未聞の事件だった。
治安主権が脅かされるという初の事態を受け、韓国政府は首相が厳正な対応を約束した。徹底した現場検証で暴力関与者を割り出し、強制送還させると公言した。しかし、その後の北京五輪の盛り上がりに埋もれ、事件への関心は薄れていった。それでも暴力への関与者が韓国の法律に従い、応分の代償を支払ったことを疑う人はいなかった。
実際はどうだったのか。事件から4年たち、確認したところ、確信は裏切られた。騒動を起こした中国人のうち、実刑はおろか、何らかの処罰を受けた人はゼロだった。強制送還もなかった。韓国国民に精神的なダメージを与えた事件だったにもかかわらず、何事もなかったかのようにうやむやになった。
韓国政府は最初から尻込みしたわけではなかった。事件直後、警察は現場で撮影した動画映像に基づき、中国人2人の身元を特定して立件した。このうち、罪状が重い留学生のJ氏(当時20)については、逮捕状も請求した。しかし、逮捕状は「本人が反省している」という理由で裁判所に請求が却下された。警察が動いたと言えるのはここまでだった。