憂楽帳:近くのライバル
毎日新聞 2012年08月11日 13時43分
久しぶりに心が高ぶった。日本は44年ぶり、韓国にとっては初のメダル獲得をかけた五輪サッカー男子3位決定戦。韓国大統領の竹島上陸はともかく、東アジアの友好国同士なのに、いざ正面から向き合うとなぜ過剰なほどのライバル心が頭をもたげるのだろう。
ここオーストリアでも隣国ドイツへの複雑な心境を垣間見ることがある。五輪直前のサッカー欧州選手権では、ドイツ戦が放映されるたびに特設会場は熱狂に包まれたが、応援団のほとんどはドイツ人。オーストリア人の多くはドイツの対戦相手を応援していた。
強烈な対抗心は数奇な歴史の産物でもある。欧州随一の名門ハプスブルク家のオーストリア帝国は第一次大戦で解体。生まれ変わった共和国はナチス・ドイツに併合され、続く大戦後は戦争責任を問われた揚げ句、敗戦国ドイツに再び水をあけられたからだ。
「オーストリア人はドイツ人が困っている時だけ仲良くできる」との皮肉を思い出す。近くのライバルを見る目が余計な感情で曇っていなかったか、我が身を振り返った。【樋口直樹】