特集ワイド:原発の呪縛・日本よ! 社会学者・大澤真幸さん
毎日新聞 2012年07月27日 東京夕刊
まずは、福島第1原発事故を知った時の直感を聞くと、「自分も含め日本の学者たちの反応は鈍かった」と率直に語る。昨年3月12日に思想家、柄谷行人さんが主催する現代思想の定例会のエピソードを紹介してくれた。「予定通りの発表、飲み会の中で、なぜか原発は話題になりませんでした。ネットのニュースで1号機の爆発を知っていたんですが、誰も原発について深く話さなかった。自分自身、こんなに大きなことになると気づかなかった」
事件の意味を即座に伝えるのがジャーナリズムなら、アカデミズムにその使命はない。時間をかけ意味を探るのが知識人と言えるが、大澤さんは自分を含めた学者の鈍さにばつの悪さが残った。底にあったのは共犯者意識だ。
「事故直後、私も脱原発を進めるべきだと考えましたが、非常に複雑な思いというか……。外国の知識人は、被爆国=反核のはずなのに、あれほど原発を持っているのは矛盾だと指摘しました。確かに矛盾と言えば矛盾ですが、日本人は長年、屈折した心理で原子力に肩入れしてきたことがあると思うんですね。だから、事故が起きたとき、単に運が悪かった、技術に問題があったでは終わらない。自分自身もあらゆることをテーマに社会を分析してきながら、原発に強く反対せず、その意味を把握してこなかったことに責任を感じました。被害者ではなく自分もある種の責任者。戦争に加担しなくても戦争責任はある、みたいな」