【コラム】希望不在の大韓民国

 世界最高の自殺率、伝染病のように広がるうつ病、学級崩壊、増加する性犯罪、大統領府や国会から工事現場の寄宿舎に至るまで漫然としている腐敗や汚職…。このような現状を見て誰かが「韓国社会はアノミー(混沌〈こんとん〉状態)に陥っている」と判断しても、「違う」と否定する根拠が見いだせない。

 韓国社会のアノミー的症状は、手術などですぐに治療可能な急性の症状ではない。まるで大地震の後、余震が続くかのようにこの20年の間に何度か発生した、国を揺るがす大きな衝撃が、韓国社会や家庭、個人に静かに浸透し、そうして蓄積された膿(うみ)が同時に噴き出した姿だと言いえる。圧縮成長の中で登場した文民政府は、独裁と権威主義を和解させ、この地に民主主義を実現した歴史的な大衝撃だった。しかしその後、韓国社会が迎えたのは成熟した市民意識、責任ある自由、他人に配慮する生活ではなく、自分勝手や秩序破壊、真実を踏みにじる偽りや違法行為だった。アジア通貨危機というもう一つの大衝撃は、貧富の格差や階層間の対立を増大させ、階層上昇のはしごを切り捨て、アノミーの爪をさらに鋭くとがらせた。

 その爪が引っかいた傷は、小さなものから、国の運命を脅かす巨大なものまで、いくつかの形で残った。バスや地下鉄に70‐80代の高齢者が乗ってきても若者たちは見て見ぬふりをし、その代わり50-60代の人が席を立ち、譲るのが当然のように思われるような世の中になった。大学生たちは、頭に付けたヘッドホンから流れるトゲトゲしたロック音楽が隣に座った乗客の神経を逆なでしていることを全く気に留めない。隣人たちは、エレベーターの中であいさつを交わさなくても、もはや不自然に感じなくなった。真夜中や明け方にクラクションを鳴らし、他人の睡眠を妨害する。対向車に道を譲ってもありがとうと笑顔を見せることもない。子どもたちが先生を殴り、教室が修羅場となっても誰も責任を取ろうとしない。教育の根幹を崩壊させる子どもたちの非倫理的な行為から、大人たちは目をそむけ、耳をふさぎ、時間が過ぎることだけを願っている。

尹泳信(ユン・ヨンシン)社会政策部長
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