過去に類をみない猟奇的な殺人事件の数々は、韓国社会のアノミーが威力を増大させていることを感じさせる。他人に向かう呪いや殺気が、かつて韓国社会に形成されていた線を越えている。人を殺すことだけにとどまらずに遺体をバラバラにし、幼な子に性的暴行を加え、その澄んだ魂まで壊してしまう。もう一つの韓国社会として登場したインターネット上での事実歪曲(わいきょく)や人格抹殺が、現実世界での犠牲者を量産している。
ここまでくれば、韓国社会のアノミーは寿命が尽きる時が来たのではないだろうか。しかしまだ寿命ではないようだ。韓国社会は、さらにもう一つの大衝撃を受けつつある。アジア通貨危機よりもかなり強い世界的な大不況が韓国を襲っている。この衝撃が始まりにすぎないのか、この衝撃が残す災難がどれほど恐ろしいのか分からない状況だ。万が一不動産バブルが崩壊し、各家庭が借金に押しつぶされ、韓国経済が長期不況に陥れば「他人が死ねば自分が生きられる、全てを懸けてあらゆる場所で皆が争う世の中」が来るかもしれない。中産層が崩壊したことで蓄積した葛藤と怒りは、地面の中に残った夢の種までも飲み込み、韓国社会と個人、家庭を攻撃し続けるだろう。
今、われわれには政治、経済など全ての分野で崩壊してゆく社会を立て直すリーダーも、ロールモデル(手本となる存在)も、メンター(助言者)もいない状態だ。韓国の未来が希望あるものだという強い信念を与えてくれる人物も見当たらない。そのため、さらに希望が見えなくなっている。