慶尚北道金泉で生まれ育った小説家、金衍洙(キム・ヨンス)氏は、25歳のときガンギエイを初めて見た。ソウル・仁寺洞の居酒屋で先輩の詩人に勧められるままに、ピンク色の魚を一切れ、何気なく食べてみた。その瞬間、彼は「全校生が使用する便所を丸ごと飲み込んだような感じ」に圧倒された。アンモニア臭が口から3日間消えなかった。金氏は「人間はなぜ、このような食べ物を食べなければならないのか」と考えた。人生の中でそれは「死ぬと分かっていながら死に向かって疾走する欲望」だった。そのため、金氏はガンギエイを「大人の食べ物」と呼んだ。
ガンギエイを発酵させる過程を見ると、金衍洙氏が便所を連想したのも無理はない。つぼに石を入れて、その上にワラを敷き、ガンギエイを置いて、繰り返して重ねていく。そしてつぼの口をしっかり閉めて、暗い倉庫に置いておく。実際には腐らせるのと変わらない。5、6日後につぼを開けると、息が詰まるほどのアンモニア臭があふれ出てくる。昔、寒くてガンギエイがあまり発酵しない冬には、堆肥を腐らせる堆肥置き場にガンギエイを置いておくこともあったという。
それでも、ガンギエイが腐らずに発酵するのは、体内に多くの尿素があるからだ。ガンギエイを発酵させると尿素が分解されてアンモニアが発生する。タンパク質が腐敗してアンモニアを発生させるのとは異なる。アンモニアは臭いがきつい毒性物質だが、ガンギエイから発生するアンモニアは体に害を及ぼすレベルではない。むしろ、ガンギエイを強アルカリ性にし、腐敗細菌や食中毒細菌の繁殖を抑える。キムチやチーズのような発酵食品と同様に、ガンギエイの味を覚えると、病みつきになる。口の中や舌の皮がむけるほどピリッとする味に魅せられてしまう。
ガンギエイはエイ科の魚だ。エイと区別するのは容易ではない。その中でも少し目立つ違いは、ガンギエイは鼻がとがっているという点くらいだ。それほど似ていても、エイは発酵させてもガンギエイのようにツンと鼻につく匂いはしない。発酵したガンギエイの身はしこしこして粘り気があるが、エイはくにゃくにゃしている。尿素がガンギエイほど多くないためだ。先日、独島(日本名:竹島)の海域で水揚げされるエイのDNAを水産科学院が分析したところ、エイではなくガンギエイであることが明らかになったという。DNAが西海(黄海)のガンギエイと完全に一致したらしい。
温暖化のせいで東海(日本海)のスケトウダラが消え、イシモチやマナガツオが水揚げされる。南海(東シナ海)のカタクチイワシが忠清道の西海沿岸まで北上し、今や西海のカタクチイワシが30%を占めている。このような複雑な時代に、ガンギエイが黒山島(全羅南道)周辺だけで静かにしているはずはない。おかげで独島近隣の漁民たちは大喜びだ。エイだと思って1キロ2万5000ウォン(約1750円)で販売していたガンギエイが、今後は10万ウォン(約7000円)以上で売れるのだ。ガンギエイははるか遠い独島までどのように移動したのだろうか。中国船の底引き網に苦しめられて腹を立て、独島に介入する日本に怒りが爆発し、鋭く刺すために駆け付けたのだろうか。