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2012年8月19日(日)付

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社会保障改革―孫の顔を思い描けば

年金生活を送る皆さん。お盆で、久しぶりに子どもや孫の顔をみて喜んだ方も多いのではないでしょうか。でも、子育て真っ最中の息子や娘から「いまの年金は高[記事全文]

油症救済法―超党派の動きを生かせ

国内最大の食品公害とされるカネミ油症事件をめぐり、国会議員が超党派で被害者救済法案の提出をめざしている。だが審議の見通しが立たない。政局の混迷で必要な法律ができないのは[記事全文]

社会保障改革―孫の顔を思い描けば

 年金生活を送る皆さん。

 お盆で、久しぶりに子どもや孫の顔をみて喜んだ方も多いのではないでしょうか。

 でも、子育て真っ最中の息子や娘から「いまの年金は高すぎる。私たちは損ばかり」とか、「病院に行ったら、窓口負担をもっと払って欲しい」と言われたら……。

 「私たちも苦労したし、保険料はちゃんと払った。年金や医療を受ける権利がある」とやり返したくもなる。険悪な雰囲気になるのは間違いありません。

 いま、日本社会はそんな難しい局面にあります。

 高齢者に厚く、現役世代に薄い日本の社会保障は、少子高齢化が進むなかで見直さざるをえません。世代間でどうバランスをとればいいのでしょう。

 国会で消費税の増税が決まった後、「社会保障の効率化や切り込みが不十分だ」という意見が目立っています。

 年金を引き下げたり、支給開始年齢を遅らせたりする。医療費では、1割に据え置いている70〜74歳の窓口負担を法律通り2割にする。いずれも政府内で検討されたのに、法案には盛り込まれませんでした。

 政治家が、有権者としてパワーを持つ皆さんの反発を恐れているからです。物価が下がった時に据え置いた年金を本来の額に戻す法案すら、実質的な審議に入れないままです。

 年金額の引き下げや窓口負担増に敏感になるのは、よくわかります。もう自ら働いて稼ぐのは難しい。病院に通う回数も多くなりますから。

 しかし、子や孫の生活も考えてみましょう。リストラや給与削減、住宅ローンや教育費で苦しんでいないか。その割に税金や保険料の負担が重くないか。国の借金をこれ以上増やすと、孫の世代に大増税が必要になるのではないか――。

 「しょっちゅう、小遣いを渡している」だけでは、社会全体には広がりません。

 むろん、生活が苦しいお年寄りがいます。高齢者世帯の1割は貯蓄がゼロで、生活保護を受ける4割は高齢者世帯です。

 一方で、1割は3千万円以上の蓄えがあり、土地などの資産を持つ人も多いのです。

 裏返せば、年齢だけで一律に医療の窓口負担を軽くしたり、保険料を低くしたりすることは理屈に合いません。

 まずは自分たちの負担分を少しでも増やす。そのうえで、年齢にかかわらず所得と資産に応じて負担し、必要な給付は受けられるような制度にする。そう進むべきだと思いませんか。

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油症救済法―超党派の動きを生かせ

 国内最大の食品公害とされるカネミ油症事件をめぐり、国会議員が超党派で被害者救済法案の提出をめざしている。だが審議の見通しが立たない。

 政局の混迷で必要な法律ができないのは困る。「今国会が最後の機会」と訴える被害者の叫びにこたえなくてよいのか。

 福岡、長崎両県を中心に西日本一帯で1968年に、北九州市のカネミ倉庫がつくった食用油を食べた人々が皮膚や内臓の疾患や、がんに苦しんだ。

 製造過程でポリ塩化ビフェニール(PCB)が混じり、加熱されて猛毒のダイオキシン類が発生したためだ。これがカネミ油症事件である。

 被害者は約1万4千人にのぼるが、認定患者は今年3月末現在で約2千人、うち生存者は1370人にすぎない。

 認定されても、カネミから23万円の見舞金と医療費の一部補助があるだけだ。しかも効果的な治療法はいまだにない。

 被害者らはカネミや国を訴えたが、87年に最高裁で和解が成立し、国への訴えは取り下げられて終結した。

 裁判当時はPCBが原因と考えられていたが、その後、ダイオキシンを直接食べた被害事件とわかった。ダイオキシンの摂食による食品公害事件は、世界でも例がない。

 カネミは経営難で資力がないとして、和解で確定した約200億円の賠償金さえ支払いを怠り続けている。

 そんな事情を考えれば国も救済に乗り出すべきではないか。公的支援を求める被害者の訴えに民主、自民、公明などの50人近い国会議員たちが法制化にむけ足並みをそろえた。

 法案は、救済策を定めて実施することを国の責務とする。

 具体策として、国が健康実態調査を毎年して、それを受けた認定患者らに国とカネミが協力費などの名目で1人あたり年間24万円を支給する案だ。

 支援充実に向けて「3年をめどに見直す」との規定も盛り込まれるという。

 ただ、被害者が求めた国による医療費の直接負担は、見送られた。医療費はカネミが払う仕組みは残し、代わりにカネミへの経営支援策を広げる。

 厚生労働省は「油症は食中毒事件で、原因企業による救済が原則」の姿勢を変えていない。

 被害者が求めるのは、被害者をもれなく救済することだ。そのためには、認定基準の全面的な見直しも課題になる。

 被害発生から44年。被害者がやっと引き寄せた救済の好機を国会でつぶしてはならない。

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