東京・世田谷区の放射線量を調べていた地元の人たちが弦巻5丁目11番地で思いもよらぬ高線量地を見つけた。2011年10月10日のことである。専門家が調べてみると、ある民家の塀のそば高さ1mで3.35マイクロシーベルト。さらに奥を調べると何と18マイクロシーベルト。これは通常の線量ではない。
その無人の民家に入ってみると床下から30マイクロシーベルトまで測れる線量計が何と振り切れた。別の計器で測り直してみると、600マイクロシーベルトを示したという。
床下にあったのはラジウム226の粉末が入ったいくつかの小ビン。ラジウム226は夜光塗料として戦前から戦時中は超有名な物質で、戦闘機など航空機や艦船、自動車、工場などの計器板、時計、灯火管制下の出入口など通路表示などに大量に使われていた。そのラジウム226がどういうわけか、世田谷の民家の床下に置かれていた。その真上は寝室だったとのことで、生活者への被曝量は中途半端ではなかろう。
放射線量は距離が2倍になると、線量は4分の1になる。つまり距離の2乗に反比例する。それを考慮しても、その真上の寝室に1日中いるとすると1年間に5シーベルト近いとんでもない量を浴びる計算になる。
ところで、「1年は何時間」なのか?「9から降順に数字を並べると9・8・7・6・5…となる。この間にある876がポイントでこれに0をつけ「8760」が1年間の時間数となる。
同上の例でみると、1時間に600マイクロシーベルトは同0.6ミリシーベルトということ。これに8760を掛けると5286ミリシーベルト。つまり約5シーベルトとなる。これはかなり強烈で、通常なら直接被曝で1か月以内に50%の人が死亡(半致死線量=原爆のように1度に浴びる線量4シーベルトとされる)を超えている。
市民探索活動が図らずもとんでもない放射線源を見つけたわけだが、ここまで強烈なケースでないにしても、2000年に長野県辰野町でモナザイト、2002年に岡山県倉敷市でトリウムといった放射線鉱物が見つかった例がある。
これは蛇足だが、先に9からの降順の話をしたが、逆に1から昇順に数字を並べてみると、1・2・3・4・5・6・7…となる。これから2を抜いて頂き、5の次に点をつけると1345.67となる。これが有名な「2抜けの駅」。JR最高地点の駅、小海線野辺山の標高となる。ホームに立っている立札を読むと確かに海抜1345.67メートル。
回り道をしてしまったが、世田谷の件は異例であった。ところが2011年10月17日、東京・足立区立の東淵江小学校で、雨どいの下、高さ5cmの場所から、3.99マイクロシーベルトが検出された。このあたりは通常0.05マイクロシーベルトという。これを線量測定をしていた区民からの指摘があったとのことで、屋根に溜まった雨水が地表に溜まった所とみられている。
このような局所的ホットスポットは、至る所に存在しているはずで、特に雨水の溜まり場の泥、落ち葉の溜まりなどが要注意。
過渡的に一般人は年間20ミリシーベルト(通常時は同1ミリシーベルト)が許容されている。20ミリシーベルトとは、1日で屋外に8時間、残りは屋内にとどまるとして、時間当たりでみると3.8マイクロシーベルトとなる(年間1ミリシーベルトでは同0.19マイクロシーベルト)。先の足立区小学校で検出された約4マイクロシーベルトはこの数字に近く、長居は無用といえそうである。
(多摩大学名誉教授 那野比古)