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丈夫な布地といえば、肌ざわりもさわやかな木綿(もめん)がまず浮かぶ。木綿の破れにくさを語るエピソードが、冒険家の植村直己さんにある。1984年、北米最高峰マッキンリーで遭難した時の旗の話だ▼単独で登頂した後の消息は不明だが、捜索隊は山頂に残る日米の国旗を回収した。強風に3カ月うたれた実物を、東京の植村冒険館で拝見したことがある。化学繊維の星条旗はあらかたちぎれ飛んでいたのに、木綿の日の丸はほぼ無傷だった▼ところが、化繊もやるもんだと見直した記事がある。米航空宇宙局(NASA)のアポロ計画で、月に立てられたナイロン製の星条旗が健在らしい。月は無風だが、昼夜で300度近い温度変化と、強い紫外線に40年も耐えたことになる▼米国は69〜72年、月面着陸を6回成功させ、そのつど国旗を残してきた。探査機LROが上空から撮影した画像を調べると、5カ所の着陸地点で旗の影が確認できたという▼国旗を立てる行為は「領有」の意思表示ともなる。天体を領土にすることは宇宙条約が禁じているが、そこは一番乗りの名誉。米国民はいま一度、スーザの代表曲「星条旗よ永遠なれ」の高揚を感じているだろう▼ロンドン五輪で50回近く流れた米国歌の題も「星条旗」というから、かの国の旗への愛着がしのばれる。しかし強さと憎さはコインの表裏。地球の津々浦々でこれほど燃やされてきた国旗もあるまい。ちなみに、木綿は主成分が紙と同じセルロースで、よく燃えるそうだ。