我々は自然界からも放射線を受けている。日本ではどのくらいの線量なのであろうか。平均した値をマイクロシーベルト/時の単位で眺めてみる。
まず、太陽や銀河が発生源である宇宙線から0.034マイクロシーベルト/時。これは高地になるほど高くなる。
大地に含まれているウランやトリウムから0.046マイクロシーベルト/時。これは花崗岩地域では高く、関東平野のような厚い堆積層の地域では低い。
大地に含まれているウランやトリウムが壊変してできた放射性の気体、ラドン222などから0.046マイクロシーベルト/時。これも花崗岩地域で高い。
またキュウリなど食物に含まれる放射性カリウム40などによる0.046マイクロシーベルト/時の体内被曝もある。
以上を合計すると、平均して0.372マイクロシーベルト/時の放射線を自然から受けている。年間にすると1.5ミリシーベルト/年となる。
ついでながら、医療での被曝はどうか。大きいのはX線CT(CTスキャンともいわれる)。これはたった1回で6.9ミリシーベルト。ここで注意して頂きたいのはCTスキャンとMRI(磁気共鳴イメージング)との違い。どちらも人体を輪切りにしてみることができるものだが、MRIではラジオ波と同じ電波を用いており、放射線とは関係ない。
乳がんの放射線治療では1回2000ミリシーベルトを20~30回照射する。照射部位の皮膚が日焼けのように一時的に赤くなるが、健康には直ちに影響は出ない。
ところで、被曝線量には「しきい値」があるのか?この問題は長年の論争の的となっている。しきい値とは、ある値までは影響がでないとされる時の値。
反原発の人たちはしきい値は無いといい、原発容認組はしきい値の存在を肯定する。現在では一応生涯累積被曝線量が100ミリシーベルト(寿命80年とし若干の余裕を見込んで1年間1ミリシーベルト)がしきい値とみなされている。この値以下の場合には、がん発生率と被曝線量との間に有意な関係が認められないとされるからだ。越すと100ミリシーベルト毎にがんの発生率は0.5%づつ増える。
このしきい値については現在も研究、解明が進められているが、しきい値がないとされるものに放射性気体のラドン222がある。WHO(国際保健機関)も米EPA(環境保護庁)も、ラドン222は従量的に肺がん、特に小細胞肺がんのリスクが高まるとの見解を発表している。空気1立法メートル100ベクレル(年間2.5ミリシーベルト)ラドン222が増加するごとに肺がんの発生率は16%上がるとしており、別のデータでは同150ベクレルでリスクは24%アップするという。
ラドンの濃度は戸外より室内の方が高く、洞穴やトンネル内部はさらに高くなる。特に花崗岩地帯は特に多い。世界では平均1立法メートル当たり40ベクレル(1年間で1ミリシーベルト)、日本の屋内では平均同15.5ベクレル(同0.39ミリシーベルト)といった別のデータもある。
ところで温泉にはラドンの含有量が多いラドン泉なるものが存在する。ラドン222の含有量が1リットル当たり74ベクレル以上、ラジウムの含有量が同100ナノグラム(ナノグラムは10億分の1グラム)以上のものをそれぞれラドン泉、ラジウム泉と呼んでいる。
放射能泉として有名な鳥取県の三朝温泉では、1リットル当たり9000ベクレル(683マッヘ)のラドンが含まれている。洞穴療養ラドン治療として著名なオーストリアのバドガスタン温泉(トロッコで2.5kmトンネルに入る)では、ラドン含有量は何と空気1立法メートル当たり16万6千ベクレル。計算してみると、このトンネル内に1年間に1回1時間滞在するだけで、吸入被曝線量600マイクロシーベルトに達する。
ラドン泉やラジウム泉では、線量を示す古い表示として聞き慣れない「マッヘ」という単位で表示されている所も少なくない。この場合は、「1マッヘは1リットル当たり13.5ベクレル」で換算するとよい。
(多摩大学名誉教授 那野比古)