2011年7月になって突如“セシウム牛”の問題が浮かび上がった。牛肉から1kg当たり4350ベクレルといった放射性セシウムが検出され、スーパーなどから販売され家庭で冷凍保存されていたパック牛肉からも2710ベクレルが検出された。牛肉に関する国の暫定規制値1kg500ベクレルと比べるとかなりの高度汚染となる。
ところがこれら高汚染牛は、一様に稲ワラを飼料として与えられていたことが判明、稲ワラからは最高1kg当たり69万ベクレルもの放射性セシウムが検出され、しかも稲ワラを飼料として与えた地域は東北全県に広がることから騒ぎは一気に拡大した。牛の出荷数カ月前から稲ワラを与えると、肉に白いサシが入って味が良くなるため、稲ワラを使う農家が多いという。
この高度汚染稲ワラは秋に刈り取ったものを戸外で保管していたため、福島第一原発事故で空中に放出されたセシウムを含む放射性物が沈降(フォールアウト)、表面に付着することによって汚染されたものとみられる。
ところで、植物の放射性物質の汚染は、このような表面だけではない。長期的に重要なのは、フォールアウトによって汚染された土壌から植物が放射性物質を吸収するという2次汚染である。
作物について移行係数(育つ土壌の何倍を吸収するか)をみると、
セシウム137 |
イネ |
4.1(玄米:0.1) |
ホーレン草 |
0.96 |
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コマツナ |
0.87 |
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キウリ |
0.18 |
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ナス |
0.23 |
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ストロンチウム90 |
イネ |
0.48 |
ホーレン草 |
0.67 |
|
コマツナ |
0.83 |
|
キウリ |
0.06 |
|
ナス |
0.07 |
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ヨウ素131 |
イネ |
0.17 |
ホーレン草 |
0.36 |
|
コマツナ |
0.31 |
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キウリ |
0.01 |
|
ナス |
0.008 |
これをみると、イネ自体もセシウムの蓄積作用がかなり高く、飼料に用いるには注意が必要。但し農水省のデータによると、玄米、いわゆるおコメはセシウム汚染が植物体より極めて小さい。
稲の作付けについては農水省が昨年11月、土壌についての放射性セシウムに関する暫定規制値をきめている。規制値は水田の土壌1kg当たり5000ベクレル。表でみたように、収穫したコメ(玄米)の移行率は0.1、つまり土壌中の放射性セシウムの10分の1を蓄積する。一方、食品衛生法ではコメの放射性セシウムの暫定規制値として1kg当たり500ベクレル(この規制値は、野菜、小麦・大豆、肉・卵、魚介類にも適用されている)と定められていることから、水田の土壌の1kg5000ベクレルという値が算出された。ちなみに、水田の放射性セシウムの汚染具合は福島県飯舘村で1kg1万5千ベクレル。
このような汚染飼料を食べた牛には、放射性物質がどの程度移行するのか。その移行係数をICRP(国際放射線防護委員会)のデータをみると、牛肉へは0.096、牛乳へは0.0046となっている。
このようなデータをベースに、肉牛、乳牛については、牧草の汚染度は1kgあたり300ベクレルが規制値となっている(放射性ヨウ素は牛乳への移行を考慮して同70ベクレル)。
試算によると、仮に1kg1300ベクレルの汚染牛肉を毎日200g食べると、1年間では1.2ミリシーベルトとなり一般人の年間許容量1ミリシーベルトを牛肉だけで突破してしまう計算になる。
(多摩大学名誉教授 那野比古)