脱法ハーブや処方薬 乱用深刻 薬物依存回復どう支える
対話重視の治療で成果 薬使わず信頼関係築く
脱法ハーブや市販薬・処方薬への依存など、若い世代を中心に、薬物問題が深刻化している。取り締まりだけでなく、遅れている薬物依存症の治療体制を整えることが、緊急の課題だ。精神科医療の取り組みと中部地方の動きを紹介する。(編集委員・安藤明夫)
横浜市で4日、開かれたエイズ予防イベントで、国立精神・神経医療研究センター(東京都)医師の松本俊彦さんは、青少年を取り巻く薬物とメンタルヘルスの問題を語った。
松本さんの調査では、思春期の子の約10%にリストカットなどの自傷体験がある。その56%は10回以上繰り返していた。
このタイプの子は、飲酒や喫煙の経験年齢が早く、成長するうちに違法薬物に手を出す恐れも。麻薬に似た幻覚症状があり、若者に乱用が広がる「脱法ハーブ」は、規制逃れのため化学成分を変えるうちに年々、毒性が高まり、救急搬送が増えている。
心の痛みを忘れようと、風邪薬などの市販薬、精神科などで処方される薬を乱用する行為も危険だ。どんどんエスカレートして、周囲がその対応に疲れ果てたころに、自殺が起きる恐れがあるという。
自殺防止と薬物依存症治療の研究者である松本さんは、こうした青少年の力になれない精神科医療を厳しく批判する。「大人に不信感や敵意を抱く子どもたちなので、薬の処方だけに熱心な“クスリのソムリエ”や、毎週決まり切った問診をするだけでは、すぐ治療に来なくなります」
松本さんは、神奈川県立精神医療センターせりがや病院に勤務していた2006年、覚せい剤依存症の治療プログラム「SMARPP=スマープ」を同僚とともに立ち上げた。医師などの支援者が患者と信頼関係を築く中で、本人の気付きを促していく認知行動療法に基づく。
現在は厚生労働省のプロジェクトとして、全国の精神科医療機関、精神保健福祉センター、ダルク(薬物依存症の民間リハビリ施設)など約40カ所で、薬物とアルコールの依存症患者に試行されている。
スマープで最優先するのは「患者が支援者とつながり続けること」。リラックスできる雰囲気の中で患者を歓迎し、秘密を守りつつ、薬を使ってしまう「引き金」などについて話し合う。週1回90分で16週、または28週が基本。高い回復率が実証されているが、終了後にまた薬を飲んでしまうケースもあり、ダルクやNA(薬物依存症の自助グループ)との連携が重要になる。
民間支援団体と連携も
中部地方は、薬物依存症を扱う医療機関が乏しい。スマープも、アルコール依存症に限り、4施設で試行されているだけ。
養南病院(岐阜県海津市)の前院長、杉田憲夫さんは、ダルクと連携して、薬物依存で入院が必要な患者を受け入れ、「薬を使わない医療」を実践してきた。
患者が不眠や頭痛を訴えても、できるだけ薬を使わず、面談で信頼関係を築いていく。杉田さんは「採算は悪いが、病棟スタッフの意識次第で、どこでもできること」と話す。ただ杉田さんが5月に定年退職し、今後の受け入れは難しくなった。杉田さんは、9月から同県羽島市で開くクリニックで「外来でできることを模索していく」という。
専門学校の名古屋医専(名古屋市)で、「医療者の意識を変えたい」と取り組むのは、非常勤講師の奥村純子さん。保健師志望の看護師たちのクラスに、アルコール、薬物依存症の自助グループのメンバーをゲスト講師に招いている。夏休み中に自助グループの見学を希望する学生もおり、「依存症のイメージが変わった」「ごく普通の、身近な病気だと分かった」といった声が寄せられている。
医療機関及び腰 体制に遅れ
薬物依存症の治療体制をどう整えるのか。5月に札幌市で開かれた日本精神神経学会では、シンポジウム「誰にでもできる薬物依存症治療」が多くの関心を集めた。
医療機関が薬物依存症を敬遠する理由の1つは「法的な厄介さ」。違法薬物を使用する患者を警察に通報すべきかどうかは、頭を痛める問題だ。
松本さんは「通報されるのでは、という恐れが受診の障壁になってはいけない」と、自傷や他者を傷つける恐れがある場合を除けば、治療と守秘義務を優先させるのが基本と説明した。
せりがや病院医師の青山久美さんは、「処方薬依存の大半が精神科で起きている」として、投薬を最小限にし、共感と傾聴、動機づけの面接を治療の中心としていくよう呼び掛けた。
埼玉県立精神医療センター副院長の成瀬暢也さんは▽明るく楽しい認知行動療法▽修了証、努力賞など意欲を高める補助介入ツール▽薬物渇望期を乗り越えるチェックリスト−などの取り組みを紹介した。
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