FCCJ理事会から召喚されている身では「唇淋し秋の風」で少し沈黙を守る他は無さそうだ。お白州に引き出され「市中引き回しの上、河原での晒し首」は無いものの、一方的に「所払い」「蟄居」「遠島」にでもなる可能性もある。この先1カ月の間、寿司バーやメディアルーム、バーセクションでのパーティやデイナーを主催しているから大事だ。主催は僕が紹介してメンバー名になっているものの、自分自身が出席出来なくなる。
このブログは本来、映画紹介を主題にするが、身辺雑記を枕にすることが多いし(その一環がFCCJ騒動だ)、それから乱読した本の紹介も兼ねる。
遅ればせながら江国香織の初期の作品で好評の「きらきらひかる」(新潮社:2011年6月51刷)を読んだ。初版は1991年だから21年のロングラン人気のある中編だ。
10日前に結婚した睦月と笑子夫妻。睦月は勤務医で笑子はイタリア語の翻訳家。インテリ夫婦だが互いに脛に傷を持つ身だ。睦月はホモで院生の頃から若い恋人紺がいる。笑子は精神病を病んでいてアルコール依存症。勿論セックスレスの夫婦生活だが、二人の誠実さや友情は不変。二人を取り巻く友達たち、それに互いに子供の欠点を知っていながら見合いをさせ一緒にした両家の両親たち。
江国独特のチャプター毎に夫々の視点から展開するストーリーは夫妻の心理を細かく穿つ。両家の親たちや友達たち総てに満足させるために笑子が睦月と紺の精子を混ぜての「人口受精」には度胆を抜かれるが江国の発想の面白さに笑える。
原題は「リンゴの実」のことでファン・ビンビン扮するヒロインの名前。第57回ベルリン国際映画祭コンペティション部門への正式出品作品。中国国内では劇中の美人女優ビンビンの激しい性愛描写の修正が行われたが、電影局の審査を受ける前に修正している時間的余裕が無いと海外の映画祭に出品したこと、またこの手の過激セックス動画はネットや海賊版ソフトで無修正版が出回り、サイバーコップは風紀を乱したことを理由に、国内での上映中にも拘わらず映画館からフィルムが没収された。相変わらず中国共産党一党独裁政治の下では真っ当な作品が作れない。 日本版は修正後だろうか?東京国際映画祭のジャッジで来日したのを見てから、ファン・ビンビンの大ファンだから目を凝らしてこちらもビンビンになるのを楽しみにしていたが、窓から夫が覗く絡みの露出はそれ程でもない。考えてみたら06年の撮影時にビンビンは25歳の駆けだし女優、この作品と「心中有鬼」で注目されたのだから、体当たり演技や露出を求められたら拒まなかっただろう。女優魂凛々だ。
大通りを埋め尽くす高層ビルや走り廻るメルセデスの高級車群は今まで僕等が抱いていた北京のイメージを一新する。NYや東京と変わらぬ大都会だ。だが表面は近代的社会だろうが底辺はやはり中国。人権無視や階級的差別が横たわっている。主人公、ピングォ(ビンビン)は田舎から大都会北京に出稼ぎに来て、マッサージパーラーで働いている。ピングォは結婚していて夫、アン・クン(トン・ダーウェイ)はやはり地方から出て来た労働者でビルの窓ふきをしている。
だがマッサージ店のオーナー、リン・トン(レオン・カーファイ)は既婚者を雇わない方針なのでピングォは独身と偽っている。ある日解雇された友達、シャオ・メイ(ツアン・ミホイツ)を慰めるため酒を飲み、したたか酔っ払って店へ戻る。社長室へ迷い込みそこで気を失う。女好きの店長トンは棚から牡丹餅。頂かない手は無いとセックスをしてしまう。ピングォは途中で気付いて抵抗するが遅すぎて店長の射精はドクドクと完了。偶然窓を拭いて自分のカミさんのセックスを覗いていた夫クンは激怒。殴り込みをかけるが軽くあしらわれた上にピングォは既婚者だとバレてクビになってしまう。
このドタバタがスピーディに描写され充分可笑しいが、後日譚はもっと笑える。店長の妻、ワン・メイ(エレン・チン)は年増盛りなのに男気が無い。訴えて来たアン・クンに「お互いに被害者同士慰め合いましょう」と騎上位でセックス。納得が行かないが無理矢理の性交で下敷きになった可哀想なクンがそれでも良くなって仕舞う表情が可笑しいったらありゃしない。更に大事件、何とピングォは妊娠してしまった。父親が夫かオーナーかどちらの子供か分からないのがミソ。金はあるが子共が居ないトンは大金を払うから生まれた子を呉れと言う。妻のワンも夫に同調。産婦人科医に迫って血液型をトンに子だと書き変えさせるクンに金で転ぶ産婦人科医も笑える。大金を貰って引き渡すが暫くピングォは乳母として乳を赤ん坊に飲ますためにリンの家に住み込む。手を出すに違いないと夫クンとリンの妻メイは疑心暗鬼。
監督は49歳のリー・ユー(李玉)。TV出身でドキュメンタリー映画に首を突っ込み、2001年のデビュ作「今年夏天」や「紅顔」で注目される。中国的喜劇でも欧米で通じるように仕上げている。
中国映画と言えばチャン・イーモーに代表されるように頑固な農婦だとか日本兵に抵抗する農民や労働者などが定番だったが、金の亡者の成金一家のドタバタ喜劇はガラリと変わった中国を見せてくれる。それも決して西欧社会や日本的では無く中国の昔からの慣習や常識、社会的ルールが底辺に流れているから興味深い。韓流のメロドラマも宜しいが、新しい中国映画にもっと注目すべきだ。小屋も新宿の三流館でフェスティバルの間の限定公開だ。
10月6日より「中国映画の全貌2012」の一作品として新宿K’s cinemaにて上映される。
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