ロンドン五輪レスリングフリー66キロ級決勝で米満達弘(26=自衛隊)が金メダルを獲得。日本男子では1988年ソウル五輪の佐藤満、小林孝至以来の24年ぶりの快挙を達成した。ブルース・リーに憧れ「世界平和」の実現が目標という異色の金メダリストは、将来的に政治家に転身し、アントニオ猪木ばりのスポーツ外交で活躍する野望があることを本紙に明かした。
幼いころからブルース・リーやタイガーマスクが大好きで、ひたすら弱者を救う「正義のヒーロー」に憧れた。「男は強さだけでなく、優しさも必要」と米満。曲がったことや、ずるいことが大嫌い。真っ正直に生き、道端のごみを拾うなど一日一善を積み重ねてきた。正々堂々と戦わない人間も、絶対に認めない。準々決勝のカナダ戦では、技から逃れようとした相手選手が米満の顔面をガシッとつかみ、目や口のなかに指を入れてきた。
ラフファイトを受けたが、「あれはひどかったですよ。でも、ああいう選手は絶対に勝てません」とキッパリ。勝利の余韻のなかでも、正義のヒーローらしく一瞬、目を光らせた。
次なる目標は五輪2連覇で、2016年リオ大会も目指すことを早々と決めている。金メダル2個を目指す理由は名誉ではない。米満は大真面目に「大げさにいうと世界平和のため」と話す。
米満によれば、金メダリストは将来の成功が約束され、ある種の「権力」を持てるという。だが、使い方を間違えると、世の中のためにならないのも事実だ。米満は五輪前に本紙に次のように明かしていた。
「権力をいい方に使いたいんです。世の中に貢献ができるように。金メダルを取ったら今よりも幅広いことができるんじゃないかな、と思うんです。たとえば子供の教育面とかも。まだ漠然としていますが、世界が平和になるような、いい活動ができるようになりたい」
米満が目指す“いい活動”を実現させるため、将来的には政治家、しかも「スポーツ外交」の専門家への転身を視野に入れている。「金メダルを取ったら、そういうことも可能なんじゃないかなと思う」
これまでも、格闘界からアントニオ猪木(69)や“霊長類最強の男”アレクサンダー・カレリン氏(44=ロシア)らが政治家に転身。
「スポーツ外交」「世界平和」を旗印に積極的に展開してきた。金メダリストとなり、確固たる政治理念を持つ米満なら、猪木やカレリンのように国際政治の場でも活躍できるだろう。スポーツ関連の大臣も夢ではない。日本選手団で最後の金メダルを獲得し、まさに有終の美を飾った米満。「どこの選手たちも死ぬほど練習してきたと思う。自分なんかが金メダルをとっちゃって大丈夫なんですかね?」。どこまでも謙虚な正義の味方が、この先もでっかいことを成し遂げてくれそうだ。
☆よねみつ・たつひろ=1986年8月5日生まれ。山梨県出身。韮崎工高でレスリングを始め拓大出。世界選手権で2009年に3位、11年は2位に入った。10年アジア大会で金メダルを獲得。昨年末の全日本選手権で3度目の優勝。陸上自衛隊・朝霞駐屯地勤務。169センチ。