【ロンドン五輪】ボクシング男子ミドル級の村田諒太(26=東洋大職)が12日の決勝でエスキバ・ファルカン(ブラジル)を破り、東京五輪以来48年ぶりの金メダル獲得した。レベルの高い中量級でのメダル獲得は歴史に残る大快挙だ。五輪金メダリストとなったイケメンボクサーにはプロ転向待望論が沸き起こりそうだが、当のプロ側は複雑な心境だという。
1964年東京五輪バンタム級の桜井孝雄(故人)以来となる2人目の金メダル──村田は五輪前、ワタナベジムに出稽古した。同ジムの渡辺均会長(62)はアマチュアの強豪だった“KOダイナマイト”内山高志(32)をWBA世界スーパーフェザー級王者に育てた実績がある。その渡辺会長は村田の特長について「体幹が強くて、パンチに圧力がある。アマチュアは距離を取るスタイルの選手が多いけど、接近戦もうまい」と解説した。
今回の活躍でプロ転向待望論が起こるのは必至。村田自身はプロ転向に関心がないとされるが「そりゃ、プロボクシング界としては喉から手が出るほど欲しい」(渡辺会長)逸材だ。
一方で渡辺会長は複雑な表情でこう話す。
「だけど、(東洋)大学職員という職があって、妻子もいる。そんな安定した生活を捨ててプロになることを、簡単には誘うことはできない」
プロで中量級の世界王者となれば、1試合で数十億円という巨額のファイトマネーを手にすることも可能。ところが、アジアでほぼベルトを独占している軽量級と違い、体重69キロから75キロまでのミドル級にはパワーとスピードを兼ね備えた世界の猛者が集結する。プロで世界王者になった日本人選手は1990年代半ばの竹原慎二だけで、その壁はあまりに厚い。村田の実力うんぬんではなく、世界王座挑戦そのものができるのか?という問題もある。
もちろん、苦難の道のりにあえてチャレンジする選択肢もある。だが、安定した生活を捨ててまでの挑戦には、さすがのプロ側も二の足を踏むほど大きなリスクがあるということだ。
むしろ30歳で迎えるリオ五輪でも十分にメダルが狙える。「それでもメダルを取ってくれたことで世間の注目がボクシングに向いてくれると思う」と渡辺会長は、44年ぶりのメダルがもたらす波及効果に期待する。プロには行かなくても、ボクシング界に大きな貢献をしたことは確かだ。