社説
「江差線」存廃 道南振興の視点が大切(8月10日)
JR北海道が、江差線の木古内―江差間(42キロ)を2014年春にも廃止する方針を固めた。
11年度の輸送密度(1キロ当たりの1日平均利用者数)が41人とJR北海道の中で最も低く、大幅な赤字で収支改善が期待できないためという。
採算が見込める輸送密度8千人をはるかに下回っているだけに、いずれは廃止やむなしとの見方も地元にはあったようだ。
だが、廃止で通学や通院の移動手段を失う住民がいる。
採算性だけではなく、沿線住民が利用しやすいダイヤ編成だったのか、15年度の北海道新幹線新函館(仮称)開業を見据えた改善の余地がないのかを、JRは十分に検証してほしい。
直接の影響を受けるのは渡島管内木古内、檜山管内江差、上ノ国の3町だが、檜山管内はただでさえ交通基盤の整備が遅れている。木古内―江差間廃止がこれに拍車をかけるようなことになってはならない。
とりわけ、上ノ国―木古内間は道道があるものの、路線バスはない。沿線住民が不利益を被らないようにするのは、廃止の最低条件だ。
終着駅のある江差町の浜谷一治町長はJRに対し、住民への説明会開催を求めている。JRは北海道の公共交通の担い手として、誠意を持って廃止の理由を説明し、地元の理解を得る必要がある。
五稜郭と江差を結ぶ江差線のうち、木古内―五稜郭間(38キロ)は新幹線の並行在来線に位置づけられ、新函館開業後は第三セクター鉄道として存続することが決まっている。
これにより、木古内―江差間は他のJR線から切り離される形となった。路線単独の採算性だけを考えれば、存続が困難なのは確かだ。
大切なのは、木古内―江差間の存廃問題を道南の交通体系の中でどうとらえるかだ。そうした大きな視点がなければ、廃止は単なる不採算部門の切り捨てに終わってしまう。
檜山管内は、海の幸や海岸沿いの奇岩、歴史的景観、民謡江差追分など豊富な観光資源がある。
しかし、それらが十分に生かされているとは言い難い。公共交通による移動手段が限られていることが一因とも考えられる。
新幹線停車駅の木古内は、本州から訪れる観光客の檜山管内への玄関口になり得る。そうした情勢も踏まえて、渡島半島全体の振興につながる交通網整備を進めるべきだろう。
木古内―江差間の廃止を沿線3町だけの問題としてはいけない。よりよい方策を導き出すために、道や道南の中心都市である函館市なども議論に加わってはどうか。