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2010年11月11日
“拉致監禁”の連鎖
パートV 鳥取教会襲撃事件を終えて(中)

被害者救出怠った警察

犯罪を“親子問題”にすり替え

picture 「拉致監禁は犯罪」と訴える桧田仁さん
 富澤裕子さんと寺田こずえさんに対する拉致監禁事件で、刑事責任の追及が恣意的に行われたとの疑念が付きまとうのは検察だけではない。普遍的権利である基本的人権を保護する責務を担う警察にも、捜査権の行使や被害者の保護として不適切な対応だったと指摘すべき点が幾つかあった。

 まず問題となるのは、犯罪防止とその後の捜査に怠慢な姿勢がみられたことだ。連載でも伝えたように、鳥取教会襲撃事件の発生直後、教会の総務部長は110番の緊急電話をしている。しかし、パトカーの到着は約20分後だった。20人近くの襲撃犯が富澤さんを拉致して引き揚げた後にやってきた。

 急行すれば5分以内で到着できる距離を考えれば、富澤さんの拉致監禁が警察の迅速な対応で防げた可能性は高かった。その上、パトカーに乗っていたのは警察官2人だけ。これでは、初めから警察には富澤さんの拉致を防ぐ意思がなかったと疑われても仕方がないだろう。

 襲撃事件から数日後、教会の総務部長が警察署を訪れ被害を訴えた際、対応した警察官は「うちも忙しくてね。お宅の事件だけにかかわっていられないんだよ」と迷惑そうに語ったという。すでに、事件の捜査に後ろ向きの姿勢だったのだ。

 また、富澤さんと寺田さんの監禁マンションを管轄していた大阪・東淀川警察署の警察官には、2人を早期に救出する機会があったにも関わらず、それを怠ったことも問題だ。救出要請を受け監禁現場を訪ねた警察官は、加害者である両親側の言い分だけを聞いて、被害者には接触しようともしなかった。

 寺田さんのケースに至っては、警察官はドア越しに救出を求める被害者の声を聞いている。後に、たとえ親子の間でも成人を監禁することの違法性について認識していたことを寺田さんに打ち明けたということが、警察官としてせめてもの良心だったと言うべきだろう。

 不起訴になったとは言え、富澤さんと寺田さんに対する拉致監禁は「逮捕監禁」に該当する違法行為であることは、検察に認定されている。犯罪現場を訪れながらも被害者を放置したことは、警察への被害者の信頼を裏切るものというほかないのである。

 警察官に対する国民の不信感を強めた不祥事に、1999年に発生した桶川ストーカー事件がある。埼玉県警上尾署に、何度も被害を訴えたにもかかわらず、警察がそれを無視した結果、女子大生が刺殺されてしまった事件だ。

 この事件では、上尾署の警察官が男女問題ということで「民事介入」と批判されることを恐れるとともに、被害の訴えに対応しない理由として「忙しくて時間が取れない」と発言したという。全国で発生している拉致監禁事件にも共通する警察の姿勢である。

 強制力をともなう警察権の発動に、警察官が慎重になるのは当然だが、ともすると、事なかれ主義に陥って、被害者の気持ちを理解することを怠っているのではないか。桶川ストーカー事件の被害者の父親、猪野憲一さんが次のように語っている。

 「まず、警察官というよりも、人としての話なんでしょうけれども、質の貧困さというか、使命感とか正義感とか、被害を受けた人間の側に立った理解がない。業務やその事件に対する責任感とかやる気のなさ。被害を受けた弱者のことを理解するための何らかの教育を全く受けていない、指導を受けてない」(日本弁護士連合会編「だいじょうぶ?日本の警察」より)

 医師の桧田仁さんは衆院議員だった10年前、鳥取教会襲撃事件をはじめ、統一教会信者への拉致監禁問題を国会で取り上げ、当時の田中節夫・警察庁長官から次のような答弁を引き出した。

 「国民の生命、身体、財産の保護を任ずる警察としては、今後とも刑罰法令に触れる行為があれば、法と証拠に照らし、厳正に対処する」

 だが、拉致監禁被害は今も続く。桧田さんは「拉致監禁は犯罪ですから、警察は法に基づいて処置すべきなのです。刑法に触れる行為を“親子問題”とすることが問題。ご都合主義で、法の適用を判断するような国家では、国民からしっぺ返しを食らう」と警告する。

 (「宗教の自由」取材班)


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