3日夜、ソウル江南区開浦洞(カンナムグ・ゲポドン)・水西(スソ)警察署に、興奮した中年男性、チョ某氏とバク某氏が詰め掛けてきた。2人の手には、善良そうな顔の50代の男性が胸倉をつかまれていた。詐欺に会ったという2人は、数ヵ月間追跡し、江南区の住宅街に間借りして隠れていたこの男を捕まえ、その足で警察署につれてきたのだ。50代の男は、警察に名前や住民番号を告げ、指紋を押した。しかし、その指紋は、住民番号に登録されていたものではなく、00年に死亡したアン某氏(53)のものだった。12年間、ゴーストとしていきながら詐欺を働いてきたアン容疑者に、足かせがはめられる瞬間だった。
1988年に結婚したアン容疑者は、妻との間に息子をもうけ、平凡な生活をしていた。釜山(プサン)の有名大学を卒業し、名の知れた公企業に就職もした。しかし1993年、退職後に始めた建設事業が振るわず、人生はこじれ始めた。借金に耐え切れず、1995年、家族と連絡を断ち切った。妻は行方不明の届けを出し、民法に沿って、届出から5年後の00年12月、アン容疑者は、書類上死亡処理された。
ゴーストになったアン容疑者は、詐欺師に生まれ変わった。アン容疑者を捕まえてきた2人も、「やられた人は一人や2人ではない。善良な顔をしているが、生まれつきの詐欺師だ」と主張した。警察が確認したのは、09年以降の詐欺行動だ。アン容疑者は、社会生活の中で会った大学同窓生の名義を借りて京畿道南楊州市(キョンギ・ナムヤンジュシ)に、ダミー会社の建設会社を立ち上げた。この同窓生は、アン容疑者が「死亡した人」であることを知らず、見返り無しに名義を貸した。アン容疑者は、生まれつきの達弁や会社名刺一枚で、投資を誘致した。「慶尚北道浦項(キョンサンブクド・ポハン)や慶尙南道泗川(キョンサンナムド・サチョン)周辺に事業団地が造成されれば、大金を手にすることができる」、「都心型生活住宅事業が人気だが、間もなく一儲けする」という言葉で、大金の投資を受けた後、行方をくらました。
アン容疑者を捕まえた被害者らは、「間借りの家主や一度立ち寄った飲食店の経営者からも金を借りるほど、口が達者だった」と舌を巻いた。アン容疑者の実名を知った一人の被害者は昨年、捜査機関に通報したが、きびすを返さなければならなかった。死亡者から詐欺に会ったということで、狂人扱いをされたのだ。
アン容疑者は、「死亡者として生きてきたが、不便なことなどなかった」と供述した。他人名義の健康保険証や携帯電話を使い、12年間職務質問を受けたこともない。運転は絶対せず、公共交通を利用した。アン容疑者は、「死亡者になったことに後で気付き、行方不明判決の取り消し手続きを踏もうとしたが、書類を整えることができず、処理できなかった」と主張したが、警察は、「警察に来て実名を明かし、指紋さえ押せば、取り消し手続きが進められる」と反論した。警察は14日、アン容疑者を詐欺容疑で拘束送検したと明らかにした。
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