七月末の深夜、隣室のイタリア人がベランダでバーベキューをしていた。いい香りにつられ、通りの向かいにあるスーパーにビールを買いに行ったら、販売中止になっていた。法改正で、七月一日からは五度を超える酒類が、午後十一時から翌朝八時まで販売できなくなったという。
世界保健機関(WHO)の二〇一一年の統計で、飲酒量が世界五位となったロシア。一人当たりの年間消費量は一五・七六リットルで日本人の二倍弱。しかも、ウオツカなど日本酒に比べて度数の高い酒を好むロシア人男性の平均寿命は六十三歳と低く、五人に一人は過剰な飲酒が死因といわれている。「欧州並みの水準で国民の禁酒と禁煙に取り組む」と大統領時代に言っていたメドベージェフ首相の顔を思い出した。
ところで、販売中止の理由を説明する張り紙をうらめしそうに見ていると、店員が、通りを一本隔てた別のスーパーで「マッチを買え」と言う。実行してみると、確かにマッチの景品にビールが付いてきた。普通なら二ルーブル(五円弱)ほどのマッチを十五倍の値で買って帰宅した。
規制は多いが、言われるがまま素直にはお上に従わないのもロシア人の国民性。そんなことを考えながらベランダで飲んでいると、隣室の住人が焼きたての肉をプレゼントしてくれた。 (原誠司)
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