負担増の社会:消費税10%へ/3 高所得者の年金減額先送り
毎日新聞 2012年08月16日 東京朝刊
◇高齢者間にも格差 低所得者支援、財源に限界
埼玉県の高級老人ホーム。入り口を抜けると、グランドピアノが置かれたラウンジで、入居者が談笑している。壁には絵画が飾られ、大浴場やアトリエもある。大手プラントメーカーの技術者だった森田和夫さん(82)=仮名=は9年前、退職金などで5000万円の一時金を払い、妻(81)と入居した。
1952年に就職した会社は高度成長期に拡大。月1万1500円だった初任給は、年収1300万円に増えた。退職後もコンサルタント業で稼ぎ、1億円近い貯金が残る。月25万円のホーム使用料は年400万円弱の年金でまかない、貯金で歌舞伎鑑賞や美術館巡りを楽しむ生活だ。
「税と社会保障の一体改革」では、高所得層の年金減額が議論された。岡田克也副総理は「所得や資産のある高齢者にも(負担を)お願いする」と説明したが、森田さんは釈然としない。「若い頃に年100万円に上る社会保険料を一生懸命払った。減らすなんてとんでもない」
ただ、消費増税はしょうがないと思う。財政破綻で長期金利が急騰し、高インフレになれば、資産価値は落ちる。過去にもらいすぎた年金の減額もあり、年30万円程度負担が増えるため、少し節約するつもりだ。「生きられるのはあと3000日ぐらいかな」と笑った。